イタリアと中国、「一帯一路」で覚書を締結 米とEUは警戒強める

イタリアのローマで覚書の署名式典に出席し握手する中国の習近平国家主席(左)とイタリアのジュセッペ・コンテ首相(右、2019年3月23日撮影)。(c)Alberto PIZZOLI / AFP〔AFPBB News

 中国の巧妙な重商主義外交によって欧州連合(EU)がじわじわと分断されている。習近平・国家主席が3月下旬、イタリア、モナコ、フランスの3カ国を歴訪した。浮かび上がってきたのは、中国を長く「多極世界の構築」を目指す「パートナー」とみなし、鷹揚に構えてきたEUが、中国の資金と技術によって自らが“捕食”される存在となりつつある現実を認識し、米中露などとの大国間競争の敗者となりうる事態に恐れを抱き始めた姿だ。欧州が身を置く状況は、実は日本にとっても無縁ではなかろう。

西欧の取り込みに狙い

 習氏にとっての欧州歴訪のクライマックスは3月23日、ローマでのコンテ伊首相との会談だったはずだ。インフラ整備を通じて中国の勢力圏を拡張する構想「一帯一路」で、中伊両国が協力することを定めた覚書に両首脳が署名したのだ。交通・インフラ整備や投資促進のほか、西のジェノバ、東のトリエステという2つの港湾開発を中国が請け負う。習氏はコンテ氏との会談で「中伊は古代シルクロードの両端に位置する。一帯一路の覚書を契機として各方面での協力を進めたい」と謳い、コンテ氏は「両国はもっと効果的で良好な関係を築かねばならない」と応じた。

 ユーロ圏に属するイタリアは、毎年の予算編成で財政赤字を国内総生産(GDP)の3%以内に収める義務を負っている。その縛りの中で老朽化したインフラの更新や南部の貧困問題に対処するのは容易ではない。「同盟」「五つ星運動」という左右ポピュリスト政党による『反EU』の連立政権は財政的な制約下にあり、中国の潤沢な資金は干天の慈雨となる。

 中国側から見るとどうか。陸のシルクロードと呼ばれる「一帯一路」では、中国は欧州において、すでに旧共産圏16カ国との間で協力の枠組み「16プラス1」を持っている。バルト3国、旧東欧諸国、バルカン半島の国々が参加し、大規模なインフラ整備事業ではこれらの国々の対中依存度は高まりつつある。問題は、このうちポーランド、チェコ、ハンガリー、ルーマニア、バルト3国など11カ国がEU加盟国であることだ。EUという共同体は、国境管理や通貨、財政規律、競争法、環境保護、農業などさまざまな分野で加盟国が少しずつ主権を共同体に移譲し、ルールを共有することで成り立っている。同時に、比較的豊かな西の国々から相対的に貧しい東の国々に富を再配分することで、自由・民主主義や法の支配、人権といった価値観を浸透させ、「不戦の共同体」を構築してきた。