その共同体を運営するブリュッセルの執行機関などから見れば、共産党一党独裁の中国が国家資本主義と「運命共同体」の建設を掲げ、欧州へひたひたと迫ってくる事態は、体制と価値観を共有する共同体を「分断」する挑戦以外の何ものでもない。欧州は、ここに危機感を強めた。とくに、欧州統合の原加盟国(仏独伊とベネルクス3国)であり、ユーロ圏第3位の経済規模を持つイタリアが、旧東側の16カ国のような立場に身を置いた事実は重大な意味を持つ。

 主要7カ国(G7)が「一帯一路」に参画するのは初めてだ。中国にとって東欧諸国との関係構築が欧州進出への第一歩だったとすれば、イタリアとの覚書は西欧の取り込みに向けた第二歩といえる。習氏は、欧州大陸の大地に両足を着け、西欧への影響力投射をにらむ戦略は前進したと計算しているはずだ。

EUが対中戦略の見直しへ

「16プラス1」のメンバーではないが、中国企業に首都アテネ近郊のピレウス港の運営権を委ねたギリシャが、すっかり中国の影響下に取り込まれた事実が重大な先例としてEUに記憶されている。2016年夏、中国による南シナ海での人工島建設や軍事要塞化に関して仲裁裁判所は中国の「権益」を一切否定した。EUは対中非難決議を採択しようとしたが、ギリシャが拒否権を発動して不発に終わった。17年にはEUが国連人権理事会で中国の人権状況を批判する声明の採択を試みたが、この時もギリシャが反対し、EU外交を毀損した。

 中伊の急速な接近に対し、フランスのマクロン大統領やEU執行機関・欧州委員会のユンカー委員長らが強く反応したのも無理はない。マクロン氏は22日にブリュッセルで行われたEU首脳会議の場で記者団に、「中国に関して欧州がお人好しでいる時代は終わった。長い間、われわれは対中政策で共同歩調を取らず、中国は欧州の分断から利益を吸いあげてきた」と警戒感を直截に表現した。ユンカー氏の中国に関する発言は「トランプ米大統領並みだった」との報道もある。

 EU首脳らは会議で、欧州委員会による対中戦略の見直し計画を承認した。この文書は中国について「全体的なライバルである」と明記し、気候変動対策や核不拡散問題では従来型の協調維持を掲げつつも、「お人好し」一辺倒の路線とは明確に決別するトーンで貫かれている点が目新しい。

 中国の対欧投資を規制することや、中国に市場開放をより厳しく求めること、中国が積極的に輸出する次世代通信5Gの通信網整備については安全保障上の脅威の有無について検討すべきことなども盛り込んでいる。ある欧州外交官は「中国による分断工作をはねつけるための対策だ」と語っている。首脳会議では、サイバー分野についてはコンテ伊首相も「懸念を共有する」と述べ、この分野で中国と協力する場合には、透明な形でEUに情報提供すると約束した。EU内で高まる懸念に一定の配慮を示さざるを得なかったのだ。

 マクロン氏は26日、習氏が国賓として滞在中だったパリにユンカー氏とメルケル独首相を呼び、4者会談を行った。EUの中軸をなす独仏と欧州委員会の共同歩調をアピールするために設定したものだ。この場でもマクロン氏は「中国はEUの一体性と価値観を尊重しなければならない」と述べ、カネにものを言わせて欧州の分断を図る試みを率直に批判したのである。

中国・EU首脳が4者会談、懸念払拭目指す習氏 メルケル氏は「互恵性」求める

仏パリのエリゼ宮での会談を前に、エマニュエル・マクロン仏大統領(左から2人目)の出迎えを受けた、ジャンクロード・ユンケル欧州委員会委員長(左)、アンゲラ・メルケル独首相(右から2人目)、習近平中国国家主席(右、2019年3月26日撮影)。(c)ludovic MARIN / AFP 〔AFPBB News

 

鷹揚な対中観の背景に

 中国に対する欧州の鷹揚な態度は、長く日米にとっては頭痛の種だった。例えば、2010年ごろには、EUが天安門事件(1989年)後に発動した対中武器輸出禁止措置を解除する動きが表面化、米国が猛烈な圧力をかけて思いとどまらせた経緯がある。「米国の力」によって平和が保たれているアジアの安全保障に対中軍事援助がどう影響するかという問題意識は、遠く離れた欧州の関心事ではなかったのである。