「馬の鼻先にニンジン」は、実際には馬も走らないようだ。YouTubeで検索すると、実験映像が出てくる。ニンジンを食べたければ、ニンジンを食べる工夫をすればよいだけのこと。わざわざ走る必要はない。人間もそうだ。高給を示されたら俄然やる気が出るか、というとそうでもない。

 働いて欲しいなら、働きたくすればよい。つまり、働くこと自体が楽しくなるように工夫すればよい。

 高給を示す、という行為は、ある意味、安直だ。仕事を楽しくする工夫を捨て、お金で解決しようとしているのだから。しかし、楽しくすることはお金だけではなかなか実現できない。上司、あるいは経営者の心がけによるところ大だからだ。上司が、経営者自身が、仕事を楽しいものにしたい、と考えているかどうかが、大切になる。

 よく言われるように、人間はパンのみに生くるにあらず、だ。馬もニンジンに生くるにあらず、と言えるように。

仕事を楽しいものにする工夫

 馬は、ニンジンなんか与えなくても、本来、走るのが好きな生き物だ。放っておけば、草原の中を跳ね回っている。

 人間にとっての仕事もそうだ。本来仕事は、工夫を凝らすことで達成することを楽しめる、とても面白い「ゲーム」だ。人間は、変に期待値を釣り上げられなければ、仕事を楽しめる生き物だ。楽しんだときのパフォーマンスは、最高のものになる。

 高給を示しても働いてもらえなかった経験のある経営者は、「しょせん人間は、働くのが嫌いな生き物、利益だけ貪って仕事はできる限り怠けたい生き物なのだ」と信じてしまうことがあるようだ。だが、自分自身が、仕事を楽しいものにする工夫を怠っていなかったか、もう一度見直す必要がある。

 仕事は楽しくないものだと決めつけて考えるから、お金で釣るしかないと考えてしまうのかもしれない。しかし経営者がそう考えれば、仕事は楽しくないもの、という社風ができあがってしまう。これではもったいない。

 仕事を誇りある、楽しいものとすること。そうすれば、社員は嬉々として働く。お金は、なるべくそうした社員の仕事ぶりに見合うものにすること。生活に困らず、余裕を確保できるものにすること。それができれば、会社は「楽しい!」を労働意欲のドライブにして、ますます加速するように思う。