これまでのような大企業の意思決定プロセスでは間にあわない

 経団連の提言によれば、出島戦略とは、「会社本体と意思決定や評価制度を切り離した異質の組織を『出島』のように立ち上げる方策」ということになる。
では、そもそも、どうして大企業に「出島」のような組織、拠点があることがメリットになるのか。

 中村さんは言う。

「例えば、ベンチャーに出資する場合や資本提携を検討する場合を考えてみましょう。よくあるケースだと思いますが、短い期間で意思決定を迫られているのに決定権限が役員会にあって、時間がかかってしまうようなことが起こりえます。他部署や役員への根回しや、適切な議論や意思決定を行うための細かい追加情報を準備している間に、競合先企業が出資を決めてしまい、投資の機会を失ってしまうようなケースです。

 また、既存の人事評価体系や、社内のしがらみ等によって、担当者が思い切った挑戦に踏み切れないこともあると思います。

 こうした背景があるので、会社本体と意思決定や評価制度を切り離し、物理的にも距離を置いた組織に、権限、人材、資金、技術等を投入し、機動的に活動させることが1つの解決策として期待されているのです」

 またベンチャーとの接点を増やし、大企業に眠っていたシーズと融合させ、大企業のリソースを最大限に活用しようという思惑もある。

出島が0→1を作ったあと10まで持っていくには大企業の役割も重要

 ただし「出島」のような組織を作るだけでは、前に進まないこともある。「出島」がいくら一生懸命シーズを発掘しても、本体がそのバトンをしっかり引き継がなければ意味がないからだ。

「事業として成功するために0から10までの過程が必要だとすると、「出島」によって0から1を生み出せたとしても、その後10まで持っていくには大企業本体の力も必要です。

 また、10の状態にあるような、既存事業を効率的に運営すべく最適化された組織に、1の状態にあるシーズを放り込んでもうまく進まないでしょう。1から10に持っていくための工夫についても議論が必要だと思います。『出島』の整備と合わせて、大企業本体、つまり「江戸」の改革も必要になりそうです」(中村さん)

 この2、3年で、これまでの日本型の組織では、テクノロジーの進化に追いつかないことが明白になってきた。大企業とベンチャーが手を組み、総力戦で世界に立ち向かおうとする日本の構図がそこに読み取れる。これまでのようなベンチャー軽視の日本の風潮では、GAFAに対抗することは不可能なのだ。

 大企業の取り組みがどう進展していくのか、今後の「出島戦略」の展開に注目していきたい。