ところが、ほとんどの中小企業は人材育成に取り組んでいないのが実態です。一方で、わずかですが、社員育成に取り組んでいる企業もあります。数年後に業績に差が開いてくるのは当然です。

 前回の記事で、「中小企業の生産性向上のためには、まず離職者をなくすこと。そのためには社員自ら社内の課題を見つけ、改善するように指導すること」と指摘しました。

(前回記事)そんなに甘くない! 中小企業「働き方改革」の現実http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/55792

 大企業のように外部のコンサルタントに莫大な料金を払って制度構築や研修をしてもらったりする余裕のない中小企業では、社員自らが「自分たちの職場をよくするためには何が必要かを自分たちで考え、実行する。それを習慣的に行う」ことができるようにする必要があるのです。

「15点を60点に」ではなく「95点を120点」に

 しかし、考えてみればわかりますが、普通の会社に、普通の人間が入ってきても、おそらくひとりでに「自分たちの職場をよくするためには何が必要かを自分たちで考え、実行する。それを習慣的に行う」ようにはなりません。そこで必要になるのが、上司による「育成」のプロセスです。

 「外部コンサルタントがやるようなことを管理職がやらなきゃいけないのか」と落胆するのは早計です。これは特別難しいことではないのです。

 私が管理職に最初に言うのは、「部下の強み(持ち味)を見出す」ということです。仕事ができる人は自分の強みを分かっていて生かしていますが、多くの人は自分の強みが分かっていません。

 90%の人は、自分はどのような人間なのか、どのようなところが良い点なのか、こういうことを考えません。これは自分が持っている機能の使い方を知らずに仕事しているということになります。だから自分の可能性を自分で狭めているし、持っている武器を生かしていないのです。

 管理職は、まず部下を観察し、良い点を伝えることからやるといいでしょう。そして「こういう風にやってみたらいいんじゃないか」「ここを意識しながら仕事するといいんじゃないか」ということも伝えていきます。

 つまり部下の強みを見出すということは、部下の可能性を見出すこと、そしてそれを伝えることで部下に自信を持たせることにつながります。

 人は自分が気づかなかった点を気づかせてくれた人に信頼感を抱くようになります。あとで述べますが、部下との信頼関係は重要です。

 日本の学校教育は平均主義なので、5科目あったら、「5科目とも70点以上取りなさい」とか「苦手な科目も平均点は取れるようにしなさい」と指導しがちです。

 だから、英語が95点で、数学が15点で、国語と理科と社会が65点だったら、きっと先生は「この15点の数学を次回は60点にしよう」と指導するはずです。でも海外は違います。「95点の英語を120点にしなさい」と指導するのです。テストで100点以上の点数がつくことはありませんが、それくらい得意分野を突き詰めろ、ということです。

 私は、仕事において得意分野を持つことが大事だと思っています。もちろん苦手という分野も最低限はやれないといけませんが・・・。営業が苦手な人に営業をやらせても商品は売れませんが、開発だったら素晴らしい成果を上げてくれるかもしれない。上司が社員に強みを伝えることで自発的に気づき、能力を発揮できるようにしていくことが人材育成の要諦ではないかと思います。

 こういうことができたら一流の管理職ですが、一部の優秀な人しかできないというわけではありません。本質は部下との信頼関係を築くことです。信頼関係は1日で築けるなんてことはなく、日常の中での積み重ねて築かれていくものです。挨拶だったり、困った時に手を差し伸べてくれたり、そういうことが大事です。