私は最近、複数の動物病院の経営改善に関わっています。実は動物病院は離職率が非常に高い業界です。社員が辞めてしまう主な理由の一つは、院長との人間関係です。

 流行っている動物病院はトリマーなどを抱えているところも多く、多くのスタッフを抱えるようになってきているのですが、動物病院の院長は、大学で獣医師としての知識・技術は学びますが、人材のマネジメントは習ってきていません。勢い、どうしてもスタッフのマネジメントが下手なのです。

 お客様も増えて売り上げは伸びてきているけれど、組織作りと人材で悩んでいる動物病院の院長が多いのです。

 動物病院は女性社員も多く、男性とは違ったマネジメント法が求められるのに、男性の院長は、声の掛け方や気配りに無頓着で、スタッフからの信頼を得られないというケースが多いのです。

 そうした中で6年前から関わっている病院は、当時社員6人でしたが、今は30人にまで増えています。動物病院の中ではかなり大きい病院です。この3~4年に限れば、辞めた人は一人もいません。

 入社時には何もできない新入社員も、病院が新入社員の受け入れ体制を整えられていますし、先輩の仕事に取り組む姿勢を見習いながら、徐々に育っていきます。

 先輩が後輩に教える時間はコストになります。定着率が高ければ先輩スタッフが何度も同じことを教えるということはなくなりますので、それだけでも生産性は下がることはありません。業務に支障が出ないようにシフトを組んで有休もちゃんと消化しています。職場での人間関係も良いので今のところ病院を嫌で辞めるスタッフが出ておらず、毎年数人採用してきた結果、気づいたら人数が増えていたという感じです。定着率が高くなり、生産性も少しずつ高くなってきたことでできることが増えてきたということになります。

 このようなことが自然にできていることが働き方改革の本質だと思います。

社員自ら課題解決していく習慣づけを

 では、辞めないような職場づくりのために、私がクライアント企業にやってもらっていることは何か。難しいことじゃありません。まず最初に全社員に、自分の会社の問題点を紙に書いてもらうんです。「理想とする職場のイメージ」、「現状」、「組織の課題」、「自分の課題」。この4つを書いてもらいます。

 非常にシンプルなことですが、実はこれをやるだけで会社の問題点と課題が相当クリアに見えてきます。「職場の課題」が明確になれば、何をやるかが決まってきます。そこで、「そのために自分は何をすればいいのか」を自分たちで考えてもらうのです。

 例えば「スタッフ間のコミュニケーションが悪い」という課題が出てきたら、どうすれば改善するかを自分たちで考え、その改善法を自分たちで実践していく。それが仕事を通じて社員が成長できる教育なんです。これを継続的にやらせるということが教育になる。自分たちで考え、実行し、失敗すれば改善法も自分たちで考える。つまりPDCAを繰り返していくわけです。

 自分達で会社の課題を整理し、出てきた課題を自分たちで一つずつ解決していく。上手くいかなかったら新たな改善策を実践する。そしてこの作業を繰り返す――これが人材育成において重要なプロセスなのです。

 一般的に、「社員教育」といえば、研修を受けさせたりということになるでしょうが、これだと効果は一過性になってしまうことがほとんどで、業務改善にはあまり結びつきません。でも自分たちで考え、自分たちで実行する習慣を身につければ、PDCAは無限に回っていきます。

 社内の問題を解決するにあたりコンサルタント主導ではなく、社員主導型の自社改善で進めていくと最初は進みが遅いですが、結果的には早く良くなっていきます。そして社内の良い気質は、常に改善をしていくことでより強固な土台となっていきます。

 この手法で職場の課題解決をしていけば、職場の環境・雰囲気はどんどん良くなっていきます。職場が良くなれば社員も辞めなくなります。よって生産性が向上し、「残業廃止」「有休消化」も達成できるというサイクルが生まれるのです。

(次回 「コレをやったら失敗する、中小企業の『働き方改革』」 に続く)