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(文:堀内 勉)

 本書は、今でもなお残されている、古き良き「アメリカの良心」を代弁する、社会変革のための提言書である。

 なぜ5億ドルもの資産を持つ大富豪である本書の著者が、上位1%の超富裕層への課税強化を提唱するのか。本書の後書きに出てくる彼の言葉に、その思いが集約されている。

“資本主義の潮流は否応なしに不平等へと向かうため、市場を富裕層だけでなく万人のために機能させるには、不断の警戒が欠かせない。・・・なぜなら、ほとんどの人が基本的に公正な世界を望んでいるからであり、また近年のペースで富の集中が続けば資本主義の崩壊を招きかねないからでもある。・・・もしも僕らの息子が、ほかの人や周りの世界に対して自分が負っている責任を理解せずに育てば、僕は親として失格ということになる。”

「1%の人々」を生んだ要因が不平等ももたらした

 アメリカの中流家庭に育った著者は、努力型の秀才で、名門私立高校フィリップス・アカデミーから奨学金つきでハーバード大学に進学した。そして、たまたま大学寮のルームメイトがフェイスブックの創業者マーク・ザッカーバーグだったことで、自身も共同創業者として20代の若さで巨万の富を手にした。

 そこから先が個人の感性の問題なのだが、著者はこの運の良さの上にあぐらをかくのではなく、運の良し悪しが何世代かかっても解消できないほどの格差を生む「勝者総取り社会」に疑問を感じ始めた。ほとんどのアメリカ人が、自動車事故や入院などの突発的な出費も捻出できない状況に置かれている中、自分は20代で億万長者になった。それは、自分の優秀さや努力の賜ではなく、運が良かったからに過ぎないと考えたのである。