金正恩氏、列車で帰国の途に ホー・チ・ミン廟を訪問後

AFPBB News〕ベトナム・ランソン省のドンダン駅に到着して手を振る、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(中央、2019年3月2日撮影)。(c)YE AUNG THU/AFP

(右田早希:ジャーナリスト)

「パル オムヌンマル チョルリカンダ」(발 없는말 천리간다)

 朝鮮半島に、昔から広く流布する諺だ。直訳すると、「足のない馬、千里を行く」。これだとチンプンカンプンだが、朝鮮語(韓国語)では、「マル(말)」には二つの意味があって、「馬」と「言葉」。つまりこの諺は、「人の噂話というものは、アッという間に千里も伝わってしまう」と諭しているのだ。換言すれば、朝鮮半島の人々は、噂話が大好きだということだ。それは、いくら北朝鮮のような閉鎖社会であっても、基本的に変わることはない。

会談決裂は北朝鮮国内で「周知の事実」

 先週2月27日、28日に、トランプ大統領と金正恩委員長がハノイで行った米朝首脳会談の「世紀の決裂」は、一週間が経っても、北朝鮮国内では「成功裏に終わった」ことになっている。例えば、朝鮮労働党中央委員会機関紙『労働新聞』(3月5日付)は、こう報じている。

<朝鮮労働党委員長でおられ、朝鮮民主主義人民共和国国務委員会委員長でおられるわれわれの党と国家、軍隊の最高領導者・金正恩同志におかれましては、ベトナム社会主義共和国に対する公式親善訪問を成果を持って終えられ、3月5日に専用列車で祖国に到着された。(中略)

 明け方の3時に、歓迎曲が鳴り響く中で、敬愛する最高領導者同志が乗られた専用列車が平壌駅構内に静かに入ってくると、最高領導者同志を寝ても覚めても夢見ていて、ただお戻りになる日だけを日がな指折り待ちわびてきた全国人民の、烈火のような敬慕の情と立ち溢れる激情の噴出である「万歳!」の、爆風のような歓呼の声が、平壌の空を覆い満たし、こだましたのだった>

 明け方の3時に、平壌市民たちが歓呼するはずもなく、また本当に歓呼させられたなら、いい迷惑だったろう。朝鮮中央テレビの映像で見る限り、駅のホームに居残りの幹部たちがズラリ整列し、平身低頭で迎えていた。

 実際には、「金正恩委員長がトランプ大統領と決裂した」という事実は、すでに北朝鮮国内に流布しているという。