縦の根回しをきちんとするということは利害関係者の「相違」を取り込んだ「総意」にするということです。

 となると、どうしても最大公約数で話が丸まります。とんがった提案がなされても、反対攻撃に合い、キバを失ってしまいます。なぜなら、イノベーションは社内の主流派にとって危険な存在だからです。一番太い事業に対抗する芽になりかねないので、主流派から早々に潰されてしまうか、社内パワーバランスの大勢に影響でない範囲の小粒の取組みまで押し込まれてしまうかです。もちろんこれでは結果が出ることはありません。

 一番太い事業を脅かすものは全てスポイルされてしまう「イノベーションのジレンマ」に陥ってしまうのです。

イノベーション人材を殺すのは多数決

 会社が、縦・横の根回しが必要な規模に成長すると、そもそもイノベーションを起こせる人材が社内からいなくなっていることがよくあります。それは、彼らが社内で評価されないために、社内で腐ってしまうか、さっさと辞めてしまうかだからです。

 企業にイノベーションは必要なはずなのに、なぜイノベーションを起こせる人材が十分に活躍できなくなるのはなぜでしょうか? 実はその秘密を北野唯我さんが『天才を殺す凡人 職場の人間関係に悩む、すべての人へ』(日本経済新聞出版社)の中で鮮やかに描き、話題になっています。同書の一部を引用しつつ、解説してみましょう。

天才:独創的な考えや着眼点を持ち、人々が思いつかないプロセスで物事を進められる人

秀才:論理的に物事を考えシステムや数学、秩序を大事にし、堅実に物事を進められる人

凡人:感情やその場の空気を敏感に読み、相手の反応を予想しながら助ける人

 組織はざっくりいうとこの3タイプの人材にわかれます。新しいビジネスモデルを描く、イノベーションを起こすのは「天才」です。「仕組み化」が得意なのは「秀才」です。ビジネスや意思決定のプロセスを「仕組み化」することで人の能力差によるバラツキをおさえこみ、仕事全体を効率的に進めるようにします。言わば、経営コンサルタントや事業企画な役割は「秀才」が担い、社員の皆様は「凡人」。秀才が描いたプロセスに沿って堅実に仕事をする役割です。(図1)お父さん世代のサラリーマンが「金太郎飴」とか「会社の歯車」と表現されたのはそのためです。

「凡人」、「秀才」、「天才」は基本的に理解し合えません。物事の良し悪しを判断する「軸」が違うからです。そして「天才」はしばしば「秀才」や「凡人」に“殺されて”しまいます。それは「秀才」と「凡人」が、「天才」に対してマイナスの感情を持つことによるものです。

 秀才は、天才の凄さに気づきながらも、嫉妬したり、「天才が消えれば自分が頂点に立てる」という動機で彼らを潰したりしようとします。