多田英起 (ただ・ひでき)。ナーブ株式会社代表取締役。1979年生まれ、兵庫県西宮市出身。株式会社エーピーコミュニケーションズ時代に、VRプラットフォーム構築の事業立ち上げ。スピンアウトし、2015年10月にナーブ設立。2016年より、不動産・建築業界に「VR内見™」の提供を開始。大和ハウス工業株式会社など多くの企業が利用しており、IT技術により業界全体の課題である「人手不足」や「業務効率」の改善を進める。

「物件を買うなり借りるお客さんに対し、これまでだって事前の説明はしている。けれど、それってほとんど理解できないですよね。築何年で縦長で何平米の部屋で・・・とスペックを説明されても、そのイメージがまったくつかないのが普通です。これが、プロ同士なら問題もなくて、VRなんていらない」

 そして、こう続ける。

「感覚というのも人それぞれです。築20年と聞くと、古いと思う人も多いでしょうが、それを実際に見て『やっぱり古い』と感じるか『意外と古くない』と感じるかは人それぞれです。だからスペックだけで決めるというのは、不可能なんです。ならば見てもらえばいい、というのがVR内見の始めの発想です」

VRによるイノベーションはすでに始まっている

 ある不動産雑誌の調査によると、賃貸の場合、内見をしないで成約する人は約1割。それに対して、昨年VR内見を導入した企業で、4割のお客さんが実際の内見をしないで決めた店舗もあったという。

「何かを買うときに、私たちは知らない間にたくさんのことをあきらめていたというのが現実だと思います。例えば自分が住む家は、実際に暮らしてから建てたいと思うのが本音のはずです。何かの記念日にレストランを予約するなら、実際に席から夜景を眺めて決めたいとは思いませんか? VRを使うと体験が共有でき、自分が本当に欲しいものがわかるのです。VRの進化は『買う』を根底から変えると思っています」

 体験してから、買う。それこそがVRの真骨頂であり、それは人々を豊かにするプラットフォームとして期待されているのだ。