オープンイノベーションにおける「成功」とは?

 次に鶴岡が「流れが変わったとはいえ、なかなかオープンイノベーションでの実績が出ない、という声もありますが」と投げかけると、それぞれがオープンイノベーションの「成功」の定義について語った。

「オープンイノベーションで成功するための秘訣は3つある。1つは人、2つ目はお金、そして一番大切な3つ目はスピーディーに意思決定を行える環境です。トライアンドエラーのサイクルを素早く回していかないと、絶対に上手くいきません。一回一回稟議を通していたら外部のニーズと合わなくなってしまう。いかに短期間でやり抜くかが重要です」(前田氏)

 端羽氏はソフトバンクとベネッセホールディングスによるジョイントベンチャー、Classiの好調ぶりを例に「オープンイノベーションでの実績が出ていない、ということはないのではないか」と異議を唱えた。ただし、「成功」の基準をどこにおくかで評価は違ってくるという。特に大企業の基準と、スタートアップがはじめに目指す成功の基準とでは金額感にギャップがある場合が多い。大企業の規模感で「あと3年で100億を目指したい」といわれても、スタートアップ側は困ってしまうという。イノベーションには時間がかかるということを認識した上で、両者の認識のギャップを埋めるための準備し、評価軸を設け、小さな成功体験を積み重ねていくことが大切だという。

「ビザスク」代表取締役CEO・端羽英子氏 © OPEN INNOVATION CONSORTIUM

 伊地知氏も大企業とスタートアップとの認識の差異に触れた。

「数年で売上を何百億にしたい、みたいな話ならそもそもスタートアップと組んじゃ駄目。そうではなく、新しいマーケットを狙いに行く、新しい創造をするというのならもう少し中長期的な視点で捉えなくてはいけません」

 オープンイノベーション活動は「点」ではなく「線」で捉える。1年目で学んだことを2年目の活動に活かし、2年目で学んだことを3年目へ活かす。そうしてノウハウを社内で積み上げていって自走できる状況をつくることこそが、オープンイノベーションの「成功」の定義だというのが伊地知氏の持論だという。

「ですから、1年目でやったことが2年目でゼロになっていたとしたら、そのオープンイノベーションは『失敗』です」

 しかし実際の現場では、1年目の担当者が2年目には他部署へ異動しており、それまでの知見がゼロになってしまうこともままある。そうならないためにはノウハウを属人化せず、評価軸をつくることが重要だと伊地知氏は話す。評価軸をつくって定量評価をすれば見える化ができる。見える化ができると比較ができる。比較ができると対策が打てるようになる。こうして、年々ノウハウを蓄積できる仕組みをつくっていく必要があるのだという。

 この点について前田氏も同意する。というのも、日本はトップの交替が非常に早いからだ。

「トップが変わればその都度、部下が従うべき戦略も変わってしまうので、手段は重要です。まずは手段を仕組み化すること自体をKPIにすれば良いと思います。それを評価の対象にすれば、手段を社内に根付かせることができるのではないでしょうか」(前田氏)

「リンカーズ」代表取締役社長・前田佳宏氏 © OPEN INNOVATION CONSORTIUM

 社内で定期的に発表の機会を設ける、外部の取材を受ける等で、取り組みを小出しに部外に見せることや、それを評価する仕組みを設けることが重要だと3人は話す。特に大企業は一日も早く売上という分かりやすい結果を出すことを求めてしまいがちだが、オープンイノベーションを成功させるには、いかに売上につながったかという面だけで評価しないこと。進捗状況や取り組みの内容をなるべくオープンにすることや、評価ルールを明確に設けておくことが必須なのだ。

「オープンイノベーションが日本の社会を明るい方向へ変えた」と言い切れるほどのインパクトはまだ生まれていないかもしれないが、元来イノベーションとは取り組みはじめて1年や2年で結果が出るものではない。それを踏まえると、6年前に比べると着実に良い方向へ向かっている、というのが3者共通の認識のようだ。