身体の内なる“海”、水と塩分を制御する腎臓

考究:食と身体(11)海の神ネプチューン篇

2019.02.22(Fri) 大平 万里
筆者プロフィール&コラム概要
「水を飲む」という行動の裏には、腎臓と脳の連携がある。アイコンは海の神ネプチューン。奥には知恵の神ミネルヴァ。

 私たちは「食」の行為を当然のようにしている。では、私たちの身体にとって「食」とは何を意味するのだろうか。本連載では、各回で「オリンポス12神」を登場させながら、食と身体の関わり合いを深く考え、探っていく。
(1)主神ジュピター篇「なぜ食べるのか? 生命の根源に迫る深淵なる疑問」
(2)知恵の神ミネルヴァ・伝令の神マーキュリー篇「食欲とは何か? 脳との情報伝達が織りなす情動」
(3)美と愛の神ヴィーナス篇「匂いと味の経験に上書きされていく『おいしい』記憶」
(4)炉の神ヴェスタ篇「想像以上の働き者、胃の正しいメンテナンス方法」
(5)婚姻の神ジュノー篇「消化のプレイングマネジャー、膵臓・肝臓・十二指腸」
(6)狩猟の神ディアナ篇「タンパク質も脂肪も一網打尽、小腸の巧みな栄養吸収」
(7)戦闘の神マーズ篇「腹の中の“風林火山”、絶えず流れ込む異物への免疫」
(8)農耕の神セレス篇「体の中の“庭師”、腸内細菌の多様性を維持する方法」
(9)鍛冶の神ヴァルカン篇「ご注文は? 肝臓は臨機応変な“エンジニア”」
(10)酒の神バッカス篇「利と害の狂騒、薬と毒の見極めに“肝腎”な臓器」

 1970年代前半、アポロ11号の月面着陸の直後とあって、博物館のミュージアムショップなどでは「宇宙食のアイスクリーム」なるものが売られるようになった。その宇宙食、カラフルな高野豆腐のような立方体で、口に入れても、わずかな香りと甘味は感じられるものの、発泡スチロールをかじっているような虚しい食感が広がるばかりであった。

 何が足りないかといえば、ひとえに「水分」である。水分の全くない食品は、たとえ口腔に唾液があるとしても、飲み込むことは難しい。

「食べにくい」という実用上の問題だけでなく、これまで述べてきた食と身体の話には、すべて「そこに水がある」という前提がある。消化も免疫も代謝も、水がなければ何ひとつ機能しない。そもそも、水無しには生命活動は成立しない。

 また、ただ体内に水分があればいいというものでない。適切な濃度の「塩水」でなければならないのだ。たまに目にする「ヒトの体液は生命が誕生した太古の海水と同じ」というやや詩的なフレーズは、実は大きくは間違っていないのだ。

腎臓が機能不全になれば命に関わる事態に

 海とくれば、ギリシャ・ローマ神話では、海神「ネプチューン」が浮かぶ。ゼウスに次ぐ絶大な力を持ち、海洋のすべてを支配する。ネプチューンが怒り狂えば、この地球は大洪水で滅茶苦茶になってしまう。

 そんな海神ネプチューンにあたる臓器といえば、ヒトの体液濃度をコントロールしている腎臓であろう。腎臓が機能不全に陥れば、前回「酒の神バッカス篇」で述べたような毒物の排出がなされないだけでなく、体液の濃度を維持できなくなり、命に関わる事態になる。

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1964年東京生まれ。生物・化学系ライター。熊本大学理学部生物学科卒業。北海道大学理学研究科博士課程修了。博士(理学)。旧工業技術院(現・産総研)、秋田県立農業短大附属属研究所などの流動研究員、高校教諭等を経て現在に至る。最近はその辺に転がる岩石の来歴が気になってしょうがない。


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