「まる弥カフェ」の外観

 日本全国には、都道府県名を聞いただけで、特定の事物をイメージできるところがある一方、何ら具体的なイメージが浮かばないところもある。後者は存在感希薄ということで地域の創生という面からも苦戦しているケースが多い。

 では、前者はどうだろうか? イメージが明確なので、その知名度を活かして様々な取組みをしやすいようにも思える。

 ところが、実際には、イメージの固定化・硬直化が創生の足を引っ張っているケースも多いようだ。今回はそんな地域の小規模事業者が逆境を跳ね返して“全国区”へと駆け上がろうとする姿を追う。

硬直化した地域イメージを跳ね返す人気事業者

 “高知県”と聞いて多くの日本人がイメージするもの──それは、坂本龍馬と、“最後の清流”四万十川ではないだろうか? 

 そのため、龍馬に関する史跡の多い高知市など中部地域と、四万十川が流れる西部地域に県外の人々の関心は集中しがちだ。それに対して東部地域に関しては、何があるのかまったく知らない人が多い。

 しかし、東部地域とりわけ安芸市から芸西村にかけては、「冬春なす」と「ゆず」の生産量が全国1位であるなど、高知県を代表する農業地帯のひとつとなっている。

 そして、この地域の1次産品を使ったスイーツなど各種加工食品の開発・販売で、東京を中心とする都市生活者の心をつかんでいる事業者がいる。安芸市で「まる弥カフェ」を運営するまる弥企画・代表取締役の小松恵子氏だ。

「こんな人生になるとは全く想定外でしたが、やっと楽しくなってきました」と語る小松氏が、その苦難と躍進の日々を振り返ってくれた。

「龍馬伝」対応で起業するも・・・

小松恵子さん

「東京の短大を出た後、地元の銀行に21年間勤務し、その後は林業の経営計画に従事する夫の仕事を手伝っていました」

 そんな彼女の人生を変える出来事が突然起きる。

 2009年、NHKが大河ドラマ「龍馬伝」の制作を発表したのだ。このドラマは、安芸市出身の三菱グループ創始者・岩崎弥太郎の視点から坂本龍馬の生涯を描くもので、放映されれば安芸市の弥太郎生家には多くの観光客が訪れると県は予測した。

 ところが生家周辺はのどかな田園地帯で、飲食店や土産物屋の一軒もない。そこで、急遽、安芸市から関係者に店を開くよう要請がなされたのである。

「でも、やり手がいなかったようで、経営経験のない私に声がかかったのです」