コンブ目の海藻、ワカメ。生で、あるいは乾燥したものを水で戻して食べる。

 四方を海で囲まれた日本は「海の幸」に恵まれてきた。魚介類だけでなく、海の中に茂る海藻もまた、日本人の食を支えてきた。

 とりわけ私たちに縁の深い海藻といえば「ワカメ」だ。主産地は日本列島周辺で、海外では天然ものは朝鮮半島や遼東半島周辺に限られる。海藻を意味する「布(め)」という語は、同時にワカメのことも指していたという。味噌汁、酢の物、煮物の具と、今も食べる機会は多く、「海の野菜」が食を彩っている。

 今回は、そんなワカメをテーマにその歴史と現状を迫ってみたい。前篇では、漁や食の歩みを追いながら、日本人が「ワカメの価値」をいかに大切にしてきたかをあらためて感じたい。後篇では、そのワカメにさらなる価値を与えるような、先端科学を用いた養殖技術の開発に目を向けてみる。

神事やしきたりの対象となってきた

 日本人がワカメの価値を大切にしてきたことは、神事や漁のしきたりなどからうかがえる。

 現在も北九州から山陰地方にかけての神社で執り行われている「和布刈神事(めかりしんじ)」はその代表例だ。ワカメは旧暦正月の頃、自然に芽を出しては茂っていくため、幸福を招くとして神聖視されてきた。福岡県北九州市門司区の和布刈神社では、旧暦の元日が開けると雅楽を奏で、豊年神楽を舞う。その後、神職たちが松明の灯りを頼りに海でワカメを刈り、神前に供える。今年も先日2月5日未明に神事が営まれた。