日本独自の「テック」を実現する

川戸温志。大手システムインテグレーターを経て、2008年より現職。経営学修士(専門職)。IT業界の経験に裏打ちされた視点と、経営の視点の両面から、ITやテクロノジーを軸とした中長期の成長戦略立案・事業戦略立案や新規ビジネス開発、アライアンス支援を得意とする。金融・通信・不動産・物流・エネルギー・ホテルなどの幅広い業界を守備範囲とし、近年は特に不動産テック等のTech系ビジネスやビッグデータ、AI、ロボットなど最新テクノロジー分野に関わるテーマを中心に手掛ける。2018年より一般社団法人不動産テック協会の顧問も務める。

 また、マンション・ビル・商業施設は、デベロッパーを頂点とする硬直的なピラミッド構造となっており、不動産ベンチャーが育ちづらい土壌となっていることも指摘できる。

 こうした課題に不動産業界はどう向き合っているのだろうか。

「ここ1~2年でデベロッパーをはじめ既存の不動産会社は、有望な不動産テックのベンチャーへの投資や提携などを積極的に推進し始めています。更に、不動産会社だけでなく、商社や金融機関、IT系の会社なども動き出しています」(川戸氏)

 消費者においても、日本人はリスクを犯してまでベンチャー企業の新サービスを利用しようとする人はまだ少ない。高額商品である不動産は、購買機会が一生に一度しかない人も多いのだからなおさらだ。“失敗したくない”という想いが強く働くため、自ずと保守的になってしまうのだ。

「さらに、米国などの不動産テックは中古住宅の売買取引などの仲介領域のサービスが多いですが、日本では依然として日本人の多くが“新築至上主義”であることから、現時点では海外に比べると親和性が非常に高いとは言いづらい状況です。ただ、所謂ミレニアル世代などの価値観の変化やリノベーションの広がりにより、中古住宅の流通が拡大しているため今後は変わってくるでしょう。更に日本は、不動産現場のIT化がまだまだ不十分であり、効率化・最適化といった“守り”のIT活用が得意であるため、海外以上に企業向けの業務支援サービスの不動産テックが広がっていくことが予想されます」(川戸氏)

 不動産業のIT化は一筋縄ではいかない。しかし、だからこそ海外とは異なる日本独自の進化・日本独自のエコシステム構築が期待される。

 日本人独特の不動産に対する考え方や、それに付随するこれまでの習慣が不動産テックと結びついたとき、それは日本人ならではの不動産テックとして注目を浴びることになるはずだ。