マネージャー職を撤廃した新・人事評価制度もユニークだが、これはすでに出来上がった組織文化に合わせて制度に整えた、という面が強いと言えそうだ。河西氏は、次のように話す。「制度はただの枠組みで『特効薬』とは捉えていません。メンバーの内面や組織文化と対話しながら、変化させていくことが重要だと思います」。

「昔のソニーこそまさにそういう文化だった」

 ネットプロテクションズの事例は、日本企業が「ティール組織」を実践する際のヒントになりそうだ。そして、『ティール組織』的な文化を実現しようとすると、日本企業にとって「斬新ではない部分もある」と感じる方も出てくると思われる。

『ティール組織』(日本語版)における嘉村賢州氏の解説では「昔のソニーこそまさにそういう文化だった」という元ソニー取締役天外伺朗氏の言葉が紹介されており、「日本本来のハイコンテクスト文化の強みも活かすことで、逆に海外に希望の光を照らすような新しい組織を生み出せるのではないか」といった嘉村氏自身の期待も述べられている。

 ティール組織で実践されている「従業員一人ひとりが、企業が目指す目的のもと、自律的に行動する」という価値観は、多くの日本人にとって、異世界のものには映らないはずだ。

 そのため、まったく新しい価値観や文化を導入するというより、本来あった「ティール組織」的な文化や価値観を壊し、従業員の「やりがい」を奪ってしまってはいないか、という観点で組織運営を見直すことも、多くの日本企業にとって有効ではないかと思う。

 つまり「信頼」のもと「安心」して働いていたはずの職場を、「不信」と「恐れ」が渦巻く場所にしてしまっていないかということである。「ティール組織」をヒントに、相互に「信頼」しながら「安心」できる職場づくりをすることは、幸せな「働き方」につながると思われる。

 そして、日本における新たな「ティール組織」のかたちが実践されることで、幸せな働き方と働き手が増えることを心より期待したい。