そのため、河西氏自身、人事総務部でなく、システム領域を担当するビジネスアーキテクト部を兼任し、さらに新規事業開発に関するワーキンググループにも参画している。「私たちは『WILLベース』という言葉をよく使います。個々人のこういう価値観を生み出したい、こういうことを成し遂げたい、という思いを重視しているのです」と河西氏は、仕事に取り組む際の姿勢を説明する。

 WILLベースの仕事は、働き手の「やりがい」を呼び戻すとともに、新しい取り組みも生む。たとえば、同社の価値観を発信するオウンドメディア「THINK ABOUT」の立ち上げは、従業員のWILL(やりたい)から始まった取り組みである。

実情に合わなくなった「上司-部下」の関係性

 さて、2017年頃には「自律・分散・協調」というティール組織的な風土をすでに作り上げていた同社だったが、「1人の上司が部下を管理・評価する」という従来型の階層と評価方法を残していたために、人事・制度面で課題を抱えることになる。

 兼務やワーキンググループへの参画を通じて、1人の従業員が果たす役割が増えるほど、その業務内容を1人の上司が管理、評価するのには限界があるうえ、負荷も高いという問題だ。こうした問題を受けて同年7月、新・人事制度の検討を開始、2018年4月に導入されることとなる。

 新たな人事制度の大きな特徴が、事業推進を担う「マネージャー」という役職の撤廃である。つまり、上司という役割をなくしたのである。そして、マネージャーにあった権限と責任を分散させ、メンバーが主体的に推進し、貢献期待も負う、という構造にした。

 一方で「カタリスト(媒介役)」という役割が導入された(図参照)。カタリストは、「ティール組織」の説明の中で「コーチ」として登場する役割に近い。多くの「ティール組織」では、全社員に責任が分配され、「コーチ」からの「助言プロセス」を経て、意思決定に至る(助言プロセスは、文字通り「助言」を得るためのものであって、「承認」プロセスでない、という点が、重要である)。

組織像のありたい姿。(MGR=マネージャー)
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