ゾゾの売上高は2018年3月期で約984億円、税引き後の純利益は約201億円だ。配当は約87億円、前澤氏の持ち分から考えると、昨年ならばその1/3程度の30億円ほど受け取っているはずだ。

 巨額の報酬と言えるが、配当額を考慮しても前澤氏の資産2500億円とは大きなズレがある。役員報酬もゾゾで1億円以上を受け取っている役員はいない。つまり配当や報酬をコツコツ貯めても2500億円には全く届かない。前澤氏の資産のほとんどがゾゾの株であることは間違いない。

上場でお金持ち?

 上場するとお金持ちになれる……。多少でもビジネスや株式投資に興味がある人ならば聞いたことはないだろうか。会社が株式市場に上場することは株式公開と言って、誰でも自由に株を売買できることを意味する。

 上場するためには株が活発に売買される必要がある。そのためには一定数以上の株主が必要で、創業者が100%の株を握ったまま上場することはできない。そこでオーナーや上場前に出資したベンチャーキャピタル(VC)は上場時に株を売り出す。

 安く株を取得していたVCは上場で大きな利益を得る。株式公開の最大の目的は資金調達なので、追加で株を売り出し、調達した資金を投資にあてることも重要な意味を持つ。

 そして、例えば上場時に時価総額が100億円、創業者が60%の株を保有していた企業があったとする。その半分の30%の株を創業者がIPOで売りに出せば、30億円の現金を手にした上に、残り30%の株式も30億円で評価される。総額で60億円、一夜にして大金持ちだ。

 その後、株を手放すこと無く急激に成長して時価総額が上場時の100倍、1兆円に到達した場合、創業者の資産は3000億円になる。多数の株を保有することから多額の配当を受け取ることもできるため、ちょっとやそっとの豪遊をしたところで株を売る必要も無い。前澤氏が気前よくお年玉を配って美術品を買い、その上で超のつく大金持ちになったのもこのような流れだ。

 では前澤氏を日本でも有数の資産家へと押し上げた「企業についた値段」、株価とは一体何を表しているのか?

株の価値とは?

 株価を語るには株の意味を知る必要がある。株式市場で売買されている株は会社の権利を細切れにしたものだ。全て集めて100%保有すればオーナー、つまり持ち主となる。株を保有することで得られる権利は主に3つある。

 配当を受け取る権利(利益配当請求権)、解散時に残った資産を受け取る権利(残余財産分配請求権)、そして株主総会で投票する権利(議決権)だ。利益・資産・議決権と、この3つの権利が株価の源になる。

 ゾゾの2018年3月期に生み出した利益は201億円と巨額に上る。昨年はゾゾスーツへの期待が高まり、時価総額は1兆円を大きく超えた。その後はゾゾスーツの製造・配布に手間取り、加えてゾゾスーツを利用した洋服の受注生産も大幅に遅れて株価は大きく下げた。株式市場全体が下落したことも影響した。

 将来得られるであろう利益に株価は強く影響を受ける*。「株価は将来得られる利益を現在の価値へと形を変えたもの」だ。つまり株価の正体、株価の源は将来の利益である。前澤氏の保有する2500億円という巨額の資産は将来の利益を先取りしたものであるわけだ。

 ゾゾの株価はごく穏やかとはいえ好景気の継続、そしてゾゾスーツへの期待で大きく上がり、そしてその両方が萎むことで高値の半分以下まで下落した。

*厳密には利益よりもキャッシュフロー、あるいはフリーキャッシュフローと表現すべきだが、ここでは利益と表記しておく。またこのような考え方を「割引現在価値」と呼ぶ。

株式市場で揺れ動く「価値と価格」

 投資家が売買の判断をする際には、「現在の株価は将来の利益をまだ反映しきっていない」と思えば割安と判断して株を買う。逆に「将来の利益と比べて株価が高すぎる」と思えば株を売る。

 つまり「将来の価値」と「現在の価格(株価)」を天秤にかけて判断をする。そして思惑の異なる多種多様な投資家の売りと買いが株式市場でぶつかってマッチングすると、そのぶつかり合いが株価を動かし、売買が成立する。

 当然のことながら投資家の思惑も日々変わる。企業の業績が良くても相場が冷え込めば株価は下がり、逆に企業の業績がイマイチでも相場の上昇によって株価が上がる場合もある。

 前澤氏の数千億円の資産は、バンド活動の片手間で行ったレコード販売を、年商1000億円近いファッション通販の上場企業まで成長させることで築き上げられてきた。

 無から有を生み出すことに成功した創業者の前澤氏は金銭的に大きな見返りを受け取ることができたわけだが、その個人資産のほとんどがゾゾ株式ということを考えると、株価の動向が前澤氏の資産額にもダイレクトに影響する。

 現在の株価について詳細な判断は避けるが、昨年の最高値を付けた夏ごろと比べ、現在はその半値以下。株価が大幅に下落したことで、「今後も従来通りに成長し続ける」と見る投資家にとっては割安、「いや、業績は横ばいで推移するだろう」と見る人にとっては現在の水準くらいが妥当と映るかもしれない。その意味で、同社の株価はまさに踊り場にあるように見える。

 正月に行われたお年玉キャンペーンが功を奏したのか、株価は多少持ち直したようだ。そう、前澤氏の派手なパフォーマンスも、ゾゾの株価に影響しているのだ。なにしろ社長が500万人超のフォロワーを抱える企業は国内に無い。前澤氏の発信力が業績にプラスに働くことは間違いない。

 前澤氏のロック魂は今後もアパレル業界にイノベーションを、株式市場にサプライズを巻き起こすことはできるのか。今後のゾゾに注目したい。