そもそもネット通販には馴染む商品もあれば馴染まない商品もあると考えられていた。その証拠に、ネット通販大手のアマゾンもスタートは書籍販売からだった。このように本やCDなどサイズが小さくどこで買っても同じものが手に入る通販向きの商品もあれば、通常は試着が必要な洋服のように通販で扱うにはハードルが高い商品もある。

 更にインターネットが普及し始めた頃は、ネットはいかがわしい場所、怪しいモノというイメージを強く持たれていたことも影響してか、高級な商品ほどネットへの参入は遅かった。

 これはインターネット普及期にネットを象徴するものが出会い系サイトや匿名掲示板などイメージが良くないサービスの印象が強かったことも原因と思われる。パソコンやネット=一部のオタクが使うモノ、といったイメージもまだ強かった頃だ。

 インターネットの通信販売は顧客にも売り手のアパレル企業にも極めて危なっかしく、胡散臭く、到底信用できない場所に見えていた。少なくともブランド価値が極めて重要なアパレル企業がリスクを冒して参入するメリットは全くと言っていいほど無かった。

 そんな状況で洋服の通販に乗り出し、しかも人気ブランドを扱おうと考え、そして実行したことはメチャクチャな発想であり立派なイノベーションだったわけだ。

飛躍のきっかけはユナイテッドアローズの参加

 筆者が自宅にヤフーBBのADSL回線を引いてインターネットを使い始めたのは2000年頃だ。当時気に入っていた国産のアパレルブランドはネット通販を行わないどころか、公式サイトすら無かった。そしてしばらく経って公式サイトがやっとできたと思ったら、載っている情報は採用に関するものだけ……これは極端な事例ではあるものの、それだけアパレルがネットから距離を置いていたということだ。今と全く異なる状況がその時代にはあった。

 そんな中、ゾゾタウンは人気ブランドをラインナップに加えるべく奔走し、国内でもトップクラスの人気と知名度を誇るセレクトショップのユナイテッドアローズを取り扱うことに成功する。

 ユナイテッドアローズの現名誉会長・重松理氏はネット通販への参入について以下のように語っている。

 社長の職にあった1995年から5年ほどかけて研究をしたが最終的にやらないと決めた、洋服は着てみないと分からないのでECは難しい、様々な会社から提案もあったがピンとこなかった。しかし当時のスタートトゥデイについてはサイトの作りが格好良く、自分達の好きな洋服を売っている感じが良く伝わってきた。そして自らスタートトゥデイのオフィスを訪れたという。

「当時の従業員は10人ほど。社長の前澤(友作)さんと話したら、物事に対する視野がすごく広いし、商品の質やサービスのあり方についてもよく考えていた。こういう人たちが次の流通を担うんだろうなと思ったし、商売と関係なしに彼らのサービスをずっと見ていきたいとも思った。

 程なくして出てきたのが『ZOZOTOWN(ゾゾタウン)』(04年開始)だった。当時見せてもらったデモ画面では、複数のブランドの店舗が集まった街がサイトに形成されており、とにかく格好よかった。すぐにやりたいと思って出店を決めた。ゾゾタウンは洋服が本当に好きな人たちが情熱を持ってやっている。当時、ほかのECサイトからも出店の話をいただいたが、そうした情熱は感じられなかったので、出店はしなかった」(『ユナイテッドアローズ名誉会長が語る 私がZOZOを選んだ理由』週刊東洋経済PLUS 2017/09/23号)

 ゾゾが成長した理由、飛躍するきっかけは多数あったと思うが、ユナイテッドアローズ出店は大きな要因になったと思われる。そして前述の通り、ブランド価値が毀損するリスクを多くのアパレル企業が心配していたように、ユナイテッドアローズもまた5年も検討した結果、進出を取りやめていた。しかしそれでも「ここならば大丈夫」と信頼を得るだけのパワーがゾゾタウンにはあったということだ。

昨年11月には、日本では初の開催となるPGAツアー(米国男子ツアー)「ZOZOチャンピオンシップ」の冠スポンサーになったことを発表。優勝で約2億円、総額で約11億円という賞金額の大きさも話題になった。

 2005年にユナイテッドアローズが出店すると人気ブランドがこぞってゾゾタウンへと出店するきっかけとなった。アパレル各社が「ユナイテッドアローズがネットに、ゾゾタウンに進出したのにウチは何をやってるんだ!?」と慌てたことは間違いないだろう。