日ロ首脳が会談、北方領土交渉の打開に至らず

ロシアの首都モスクワで行われた日ロ首脳会談の後、共同記者会見を行うロシアのウラジーミル・プーチン大統領(右)と安倍晋三首相(左、2019年1月22日撮影)。(c)Alexander NEMENOV / POOL / AFP〔AFPBB News

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(数多 久遠:小説家、軍事評論家)

 事前報道で北方領土返還交渉の進展が囁かれていた2019年1月22日の日ロ首脳会談では、プーチン大統領から「解決は可能だ」と前向きな発言があったものの、結局のところ目あたらしい情報はでてきませんでした。

 ただし、こうした重要な交渉では、合意ができるまで、交渉状況を外部に出さないことが多いため、実際には交渉が進展している可能性もあります。過去には、観測気球と思しきリーク情報をマスコミに流した日本サイドに対して、ロシアから釘を刺されたこともあるため、新たな情報がないことをもって、政府を非難するのは不適切です。

 むしろ、2018年末に、プーチン大統領が米軍の展開を意図したと見られる言及をしたことを考えれば、交渉が新たなステージに入った可能性も考えられます。一方で、この発言を受け、日本国内の報道では、急に軍事・安全保障に関する言及がなされるようになってきました。

 本稿では、理解されているとは言い難い北方領土の軍事的価値を概観し、交渉の今後を占う一助としたいと思います。

北方領土の軍事面の価値

 軍事的観点から、ロシアが北方領土を返還したくない理由を整理してみましょう。

(1)ロシアの核抑止戦略への影響

 ロシアの核戦力は、主に地上発射の弾道ミサイルと潜水艦発射の弾道ミサイルに依っています。この内、北方領土問題が大きく影響するのは、潜水艦発射弾道ミサイルに対してです。

 地上発射の弾道ミサイルは、移動式のものであっても衛星などによって発見され、発射前に破壊される可能性があります。そのため、いわゆる報復核戦力(攻撃を受けたあとの反撃用)としては潜水艦発射の弾道ミサイルが重視される傾向は、米ロとも共通です。

 しかし、ロシアの海軍力は、アメリカに遠く及びません。アメリカは、戦略ミサイル原潜(弾道ミサイルを運用する原子力潜水艦)を世界中の海で使用していますが、ロシアの戦略ミサイル原潜は、バレンツ海など北極周辺海域とカムチャツカ半島と千島列島で囲まれたオホーツク海ぐらいでしかまともな運用ができていません(ただし、クリミアを占領しているので、今後は、黒海でも戦略原潜を運用する可能性はあります)。