しかし、いずれにしても、MC-21は大幅な開発のやり直しを強いられることになる。1年や2年でやり直せるものではない。

 改造後のMC-21がどのような名前を名乗ったにせよ、すでにそれはMC-21ではなく新しい機種である。そして、残念ながらパフォーマンスの低下が予想される。

 さらに、これまでの設備投資のうち、特にVaRTM法を前提とした部分は完全にムダになる。追加の設備投資と開発費がかさみ、時間だけでなく、コスト的な優位性も失われる。

 制裁は、MC-21の開発を潰し、多くの技術的・コスト的不利の下で、新機種の開発を一から始めるのに近い状況に追い込んだのである。

ロシアからの反撃はあるか

 2014年の制裁発動以降、世界の航空業界ではロシアの反撃に一抹の不安を感じている。ボーイングもエアバスもロシアのチタンに依存しているからだ。

 特にボーイング787は主翼と胴体の繋ぎ目にロシアのチタンを多用している。このような重要な部分で、材料のメーカーを簡単に変えられないのはボーイングも同じである。

 もっとも、ロシアが製造するようなチタン材の製造は、米国とフランスで可能である。また、日本でも日本アエロフォージ社が育ちつつある。技術的には代替は可能である。

 しかし、ロシア製チタンの代替作業を強いられれば、短くても何か月間のレベルで、ボーイング787やロシアのチタンを使用している機種の生産に大きな影響が出るだろう。

 MC-21を潰されたことにロシアが本気で怒り、チタンの供給を止めれば米国の航空産業に打撃を与えることができる。

 これまで、民間機の分野では、ロシアは米国から複合材の素材や機械類を調達し、米国はロシアのチタンを使うという良い協力関係があった。