(加谷 珪一:経済評論家)

 官民ファンドの「産業革新投資機構」が空中分解した。所管する経産省と民間出身の経営陣との間に埋めがたい溝ができたことが主な原因である。市場原理に照らして官営ファンドに意味があるのかという話は、以前から議論されてきたテーマであり、世界的にはほぼ結論が出た状況にある。今回の失敗は起こるべくして起こったとみてよいだろう。

報酬をめぐる対立は問題の本質ではない

 産業革新投資機構は、前身の産業革新機構を改組して出来上がった組織である。経済産業省は同機構が高い成果を上げられるよう、高額報酬で民間から優秀な経営陣を招聘するという方針を打ち出し、こうした呼びかけに対して集まったのが、今回、辞表を提出した経営陣である。

 ところが経産省は、当初、提案していた高額の役員報酬を撤回。対応に不審感を抱いた経営陣との間に溝ができてしまい、民間出身の全役員が辞表を提出するという事態に発展した。

 経営陣の怒りは激しく、辞任会見に臨んだ田中正明社長は「日本国政府の高官が書面にて約束した契約を、後日一方的に破棄し、さらには、取締役会の議決を恣意的に無視するという行為は、日本が法治国家でないことを示しています」と激しい口調で政府を批判した。

 経営者がいない状況で業務の遂行は不可能であり、経産省はこうした事態を受けて、2019年度に予定していた1600億円の関連予算を取り下げる考えを明らかにした。同機構は発足とほぼ同時に空中分解してしまった。

 表面的に見れば報酬でモメたということになるが、田中氏は元三菱UFJフィナンシャル・グループ副社長で金融庁の参与も務めた人物であり、取締役会議長にはコマツ相談役の坂根正弘氏が就任している。どちらも財界の大物であり、役員報酬の金額そのものは大した問題ではないだろう。