武装する幼児:イエメンの「伝統」

 イエメンでは、部族社会の中で男子が幼少期から武器を手にすることが慣習~伝統となっており、それがこのような事態を誘引した一大原因になっているとの指摘があります。

 これを「我が国の伝統であるからして、国際社会はほっておいてくれ」などと放置していいのか、と問われると、およそそんなことはないのが21世紀のグローバル社会と言わねばなりません。

 イエメン部族の男児が早くから自ら武器を手にする背景には8000年来、人類最長の文化と伝統が関わっていると考えても、大げさではないと思います。

 というのも、インダス文明が沿岸交易を通じてアラビア半島、さらにはシナイ半島を越えて地中海文明と交流したのは、イエメン隊商の貢献に負うところが多大と考えられるからにほかなりません。

 古代の遠隔交易で、正確に物品の数や内容を伝えるために数詞や割り印が工夫され、土製の印像(トークン)がやがて「文字」を生み出した過程を跡づけたデニス・シュマント=ベッセラの衝撃的な研究は既に定説として受け入れられています。

 こうした人類文明の大きなグローバルアーチを、8000年規模で支え続けてきた中に、誇り高いイエメンの隊商部族が位置づけられます。

 全世界で標準的な音素の表音文字(アルファベット)を日本は元来持たず、シラブルの表音文字と漢字という表意文字の混合文字体系です。

 しかし、これも元来はシナイ半島のセム部族が、異なる地域の言語を共通の音符で表現しようとして楔形文字を改良することで生まれたもので、イエメン人が古代インダス、メソポタミアとエジプトをつなぐ過程で発生したものです。

 現在私たちが用いているアルファベットは、シリア近在で活躍したフェニキア文字を源流とするもので、その普及にはやはりイエメン文化が役割を果たしていると考えて外れないように思います。

 「月の砂漠をはるばると」旅のラクダが行くかどうかは別として、古代の隊商は山賊、海賊の難を自ら防いで初めて成立します。

 いや、もっとハッキリ言うならば、弱っちい奴がいたら武力で財貨を奪い取ってしまう賊そのものの隊商も決して珍しいものではなかった。