「月は地球より小さく、重力が6分の1しかないので、水を重力圏内にとどめておくことができません。ガス化して宇宙に放出されてしまうのです。しかし、水が氷として存在している可能性が指摘されるようになり、どこにあるのか調べたところ、太陽の当たらない極域、それも南極域に多いことが分かってきた」

 そもそも月の水がどこから来たのかは地球と同様に分かっていないが、誕生時に内部に残っていたものが火山の噴火などで表面に出てきたという説や、小惑星や彗星が運んできたという説がある。

「月の水を調べることは、月の成り立ちを解明することと不可分で、それは月と兄弟関係にある地球を知ることにも繋がります。また水は生命の起源なので、どうして生命が誕生したのかという謎にも迫れるかもしれない。水は非常に重要な研究テーマなのです」

 さらに、今後の宇宙探査にとっても大きな意味を持つという。

「月に水があれば、酸素と水素に分解し、燃料として使うことができます。月面を移動する車のエンジンにもなれば、火星探査に向けてロケットを飛ばすこともできる。地球からロケットを打ち上げると、秒速8キロまで加速する必要がありますが、重力の小さい月からは秒速1キロほどで宇宙に出られる。つまり月は、火星などの次の目的地へ行く燃料基地としてとても有益なのです」

 月周回の拠点どころか月面基地も夢ではなく、火星も一気に近づくというわけだ。

無人月面探査は「行ったもの勝ち」

 いま各国は「ゲートウェイ」構想への参加を調整しつつ、それと並行して無人月面探査のプロジェクトを急ピッチで進めている。

「ゲートウェイから月面へ降りるという段階が来た時のために、着陸したり月面を移動したりする技術を持っておかねばなりません。無人探査はその実証研究でもありますが、これは大きな国際協力体制を敷かなくても単独でできるため、協力よりも競争の領域になっている。しかも現時点で月には国際ルールがないので、陣取り合戦ではないですが、行ったもの勝ちという側面がある。なるべく早く行くに越したことはないと、どの国も目を光らせています」

 とりわけ極域の「陣取り合戦」が激しく、日本は2021年に「小型月着陸実証機」(SLIM)を打ち上げ、月の表側で狙い通りに着陸できるか確かめてから、2023年に南極を目指す。こちらはインドとの共同プロジェクトで、10キロメートルの範囲で水の量や質を調査し、その場で観測するという。

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