●「条約第6条の実施に関する交換公文」

 米軍の日本国への配置における重要な変更は、1960年の日米安全保障条約改定の際の条約第6条の実施に関する交換公文に基づいて設けられたものが事前協議の対象となっている。交換文書には次のように規定されている。

 「合衆国軍隊の日本国への配置における重要な変更、同軍隊の装備における重要な変更並びに日本国から行なわれる戦闘作戦行動(前記の条約第五条の規定に基づいて行なわれるものを除く)のための基地としての日本国内の施設及び区域の使用は、日本国政府との事前の協議の主題とする」

 この交換公文は、以下の3つの事項に関しては、我が国の領域内にある米軍が、我が国の意思に反して一方的な行動をとることがないよう、米国政府が日本政府に事前に協議することを義務づけたものである。

・米軍の我が国への配置における重要な変更(陸上部隊の場合は一個師団程度、空軍の場合はこれに相当するもの、海軍の場合は、一機動部隊程度の配置をいう)。

・我が国の領域内にある米軍の装備における重要な変更(核弾頭及び中・長距離ミサイルの持込み並びにそれらの基地の建設をいう)。

・我が国から行なわれる戦闘作戦行動(第5条に基づいて行なわれるものを除く)のための基地としての日本国内の施設・区域の使用。

 なお、核兵器の持込みに関しては、従来から我が国政府は、非核三原則を堅持し、いかなる場合にもこれを拒否するとの方針を明確にしてきている。

(3)筆者の所見

 わが国では、本平和条約締結交渉の経済的側面のみが注目されているが、本当は安全保障上の問題である。

 ロシアの安全保障上の懸念をいかに払拭できるかが本交渉の成功のカギと言える。

 オホーツク海は軍事戦略的な要衝である。

 「クリル」諸島(北方4島・千島列島)は、ウラジオストク配備の主要水上艦を中心とする艦艇の太平洋への自由なアクセスを維持していくうえで重要である。

 さらに、ペトロパヴロフスクには、最大射程8300キロの最新型SLBMブラヴァを搭載した新型の戦略原潜(ボレイ級)が配備されているように、オホーツク海は戦略原潜を防護する聖域「bastion(バスチオン)」となっている。

 このようにロシアから見た北方領土・千島列島の軍事的意義は極めて大きい。

 プーチン大統領は、オホーツク海の防衛を念頭に、両島を日米安全保障条約の適用外にするよう要求しているとも伝えられている。

 従って、冷戦の終結後「最悪」と言われ米ロ関係を考慮すると、オホーツク海に面した北方領土への米軍駐留は不可能であると言わざるを得ない。