横山光輝氏の『三国志』とコラボした日経電子版のキャンペーン広告

 大手紙の中で、最もデジタル化に成功したといわれているのが日本経済新聞だ。有料購読者数が60万、無料購読者数も含めると400万に上る「日経電子版」は、なぜ業界のトップを走り続けるのか。『日経電子版の読みかた』(プレジデント社)の著者でもあるフジテレビ解説委員の鈴木款氏が、日経の常務取締役でありデジタル事業を担当する渡辺洋之氏にその秘密を直撃した。(構成:阿部 崇、人物撮影:NOJYO<高木俊幸写真事務所>)

読者の「使い勝手」を考えプラットフォーム対応を追求

鈴木款氏(以下、鈴木) 渡辺さんは2010年「日経電子版」創刊メンバーの一人でもあるわけですが、当時紙と同じような価格設定で、新聞業界に衝撃が走りましたね。

渡辺洋之氏(以下、渡辺) みんなから「失敗する」と言われていました。あの時に「成功する」と予言した人はいないんじゃないですか(笑)。

鈴木 しかしいまは有料購読数が60万を超えて、無料も含めると400万。この8年間で、電子版に対して購読者側が求めるものは、どう変わってきたと思いますか?

渡辺 当初のニーズというのはおそらく情報の中身ではなかったですね。むしろ使い勝手のニーズで、デジタルならではの使い勝手、紙と違う使い勝手を要求されていたような気がします。

鈴木款:フジテレビ解説委員。早稲田大学卒業後、農林中央金庫にて外為ディーラーなど歴任。1992年フジテレビ入社。営業局、『報道2001』ディレクター、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。著書に『小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉』(扶桑社新書)、『フジテレビ元経済部長が毎日実践している 日経電子版の読みかた』(プレジデント社)など。現在、FNN.jpプライムオンラインに教育問題など寄稿中。

 こちらとしては日経BPとか提携社のコンテンツをいっぱい入れて一生懸命充実させていましたけど、それ以上に効いたのはプラットフォーム対応ですね。

 ガラケーからスマホになるとか、iPadが出てくるとか、そういう新しいプラットフォームに対して対応することで、「シングルプライス・マルチプラットフォーム」という環境を作りました。

 まずは「新しいデバイスを買ったのに、なぜここで日経が読めないの」という声に一生懸命対応してきたのが初期のころです。

鈴木 それが他の大手紙との差別化にもつながっていったんですね?

渡辺洋之:1985年、早稲田大学理工学部を卒業し、日経マグロウヒル社(現日経BP社)入社。シリコンバレー特派員や日経パソコン編集長を経て、ネット事業推進センター長や執行役員クロスメディア本部長を歴任。2009年から日本経済新聞社の電子版開発のプロジェクト運営に携わる。同社デジタル編成局長、執行役員電子版担当、常務執行役員デジタル事業担当などを経て、2018年3月から、常務取締役デジタル事業担当、日経イノベーション・ラボ所長に。

渡辺 そうですね。結果としてプラットフォーム対応で大きな差がついたと思います。

 もちろんコンテンツの差も大きかった。実は新聞社の中で最も雑誌が強いのは日経グループです。雑誌と新聞の両方のコンテンツを使うと、他社には簡単にまねできないサービスだろうと意識していました。

 両者が相まって独自性が自然な形で強くなったと思います。

鈴木 紙離れしている若い世代に電子版はどの程度ささっていますか?

渡辺 最近は月間で申し込んでくるうちの40%以上は20代です。新聞市場全体に対してはわかりませんが、日経に関心がある、すなわち経済や産業や企業ニュースに関心ある人は電子版に入ってもらっているのかなという手ごたえはあります。