ご注文は? 肝臓は臨機応変な“エンジニア”

考究:食と身体(9)鍛冶の神ヴァルカン篇 

2018.12.28(Fri) 大平 万里
筆者プロフィール&コラム概要

低すぎても高すぎても危険な血糖値を安定に

 まず、血糖値の安定に肝臓は不可欠である。血糖値とは、血液中のブドウ糖の濃度のことである。

 生物が活動するうえでの共通のエネルギーはATP(アデノシン三リン酸)という化合物なのだが、そのATPは各々の細胞で合成しなくてはならない。そして、細胞はATP合成のためのエネルギー源を外から受ける必要がある。そのエネルギー源とはおもに糖質、脂肪酸、ケトン体、アミノ酸の4つである。このうち身体の全細胞が定常的に利用できるのが糖質、中でも血糖値の基準となるブドウ糖だ。そのため、ブドウ糖は身体の基幹エネルギー源として血中に一定濃度(1g/L)存在する必要がある。実際に低血糖(0.5g/L以下)になれば昏睡状態となり、放置すれば最悪、死に至る。

 とはいえ、血糖値は高すぎても困るのである。ブドウ糖は反応性の高い物質であるので、血糖値が高い状態が慢性的に続けば徐々に循環器系にダメージを与えてしまうのだ。

 しかし、ご飯やパンを摂取すれば、十数分後には大量のブドウ糖が小腸から吸収され、高血糖となる。各々の細胞がブドウ糖を消費するのを待っていてはリスクの方が大きくなる。逆に、外部からのブドウ糖の供給が長時間ない場合は低血糖になってしまう。

 そこで肝臓の出番である。

 肝臓は、高血糖時にはブドウ糖をグリコーゲンという形で貯蔵し*、低血糖時にはその蓄えられたグリコーゲンを分解してブドウ糖を放出し、血糖値を調節している。

 さらには、身体が蓄えられる300g程度のグリコーゲン量を上回る糖質が一気に入ってきた場合、肝臓は糖質を中性脂肪へと変換させ、血糖値を下げようとする。逆に、就寝時など8時間以上にわたって糖質の供給が途絶えてグリコーゲンが枯渇しそうな場合は、アミノ酸からブドウ糖を合成するようになる。これを糖新生とよぶ。

 血糖値が大幅に変動しないように肝臓は大活躍なのだ。ヴァルカンは火を扱う神でもあるので、基幹燃料の供給コントロールを請け負っているわけだ。

*:高血糖時には筋肉でもグリコーゲンが蓄積されるが、肝臓と違って筋肉の細胞内でしかそのグリコーゲンは使えない。

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1964年東京生まれ。生物・化学系ライター。熊本大学理学部生物学科卒業。北海道大学理学研究科博士課程修了。博士(理学)。旧工業技術院(現・産総研)、秋田県立農業短大附属属研究所などの流動研究員、高校教諭等を経て現在に至る。最近は近所に流れる河川の来歴が気になってしょうがない。


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