しかし、人工知能を農業に生かす、というアイディア自体は、私自身もずっと関心があった。

 6年前に子どもが生まれ、赤ん坊が言葉を理解するようになったり、字を読むようになっていく様子をSNSなどで紹介すると、人工知能に詳しい研究者の方から「深層学習の最新研究とよく似ている」と指摘され、ディスカッションを続けていた。

 確かに、幼児が学習する過程は、人工知能の様子ととてもよく似た話が多い。いや、人工知能の研究者が、幼児の学習する様子を観察し、開発に取り入れているからかもしれない。育児が図らずも、人工知能への関心を高めてくれた。

センサーと得られるデータの限界

 最近になって改めて企業から、「農業で人工知能を利用したい。ついては、肥料成分を分析できるセンサーを教えてほしい」という質問が来た。私はこの質問のおかげで、人工知能を農業に利用する上で、何が課題なのかがはっきりしたように思った。そのときどう返答したかを含めて、説明しよう。

「農業現場で使えるセンサーは、いまだに残念ながらpHとECを計る機械だけです。肥料成分を分析できる、安価で耐久性のあるセンサーがないからです。
 たとえば植物にとって最も重要な肥料成分に、硝酸があります。酵素電極というセンサーがありますが、すぐ壊れるし、しかも高価です。自動化はコスト面で難しいでしょう。液クロ(高速液体クロマトグラフィー)という分析法がありますが、サンプルからゴミを除去する作業がとても面倒。ろ過用のフィルターも高価。やはりコスト面で自動化は難しいです。
 その他の分析法も同様なので、結局、安価で丈夫、農業現場でも使えて、常時データが取れるセンサーといえば、pHメーターとECメーターしかありません」

 すると、企業の方は意外そうだった。いまや、脳内の極微量の情報伝達物質までメカニズムが明らかになっている時代。そんな科学の発達した時代に、錬金術師が発見したような物質(肥料成分)を、簡単に分析できるセンサーがないなんて。とても信じられないといった反応だった。

 肝心なのはここから。私は次のように続けた。