しかし、本当に感動する冒険物語というのは、主人公の揺れ動く不安な心を巧みに描写していることが多い。自分もその場に置かれたら、きっと不安で仕方ないだろう。将来を悲観して、絶望してしまうかもしれない。そんな気持ちの中で、どうやって一歩を前に出せばよいというのだろう?

 あなたもかつては、そうだったはずだ。なんとか克服したものの、その場では、いったい自分はどうなってしまうのだろう、と不安でたまらなかったはずだ。情けなくてみっともない、勇敢でもなんでもない、身の丈そのままの自分を、若い人に話してあげるとよい。

 すると、若い人は、同じ立場に追い込まれたら、自分もきっと同じ気持ちに追い込まれるだろう、と、臨場感を覚える。そして、いったいどこからどう手をつけたらよいか分からない、という気持ちになるだろう。「自分ならどうするか?」という能動感が、若い人の中に生まれる。だから、身を乗り出して話を聞く。

 だから、年配の方は、少しみっともない自分、不安で一杯だった気持ちを若い人に話してあげてほしい。「君だけじゃない、私も不安で一杯だったんだよ」と。すると、若い人は話を聞きたがる。

 若い人が悩みがちな話題を提供すること。上から目線で解決法を提示するのではなく、「参考になるかどうか分からないが」といいながら、精一杯、若い人の悩みに寄り添おうという姿勢を持つこと、自分をかっこよく描いてみせた自慢話ではなく、みっともなく情けなく不安で一杯の自分の気持ちを話して聞かせること。すると、若い人は、身を乗り出して聞く。

 それだけ若い人にすり寄ったら、尊敬どころかバカにするようになるのでは、と思われるかもしれない。そんなことはない。だって、あなたは目の前で生きているのだから。そんな情けない気持ちになってもなお、目の前でこうして生きている。それは、不安で一杯の若い人たちにとって、「絶望的だと思ったけど、克服できるんだ」という希望に映る。

 それに、自分の悩みに寄り添おう、としてくれる人の存在は、とても貴重だ。そんな人は、大切にしたくなる。そこまでしてくれる年配の人なんて、めったに出会わないのだから。だから、年配の方は、若い人にとってのそうした貴重なアドバイザーになっていただきたい。