2つ目は、部署により仕事内容が異なることを理解していないことです。確かにその部署独特な仕事もありますが、書類作成など、どの部署にも共通する仕事は存在すると人事は考えるでしょう。しかし残念ながら現場の人たちは、営業、人事、製造などと部署が違えば専門性も仕事も違うのだ、と判断します。いくら働き方改革の担当者が「共通部分があるじゃないか」と言ってもなかなか受け入れてくれません。誇りを持ち真面目に仕事をしている組織ほど、この傾向が強く出ます。「うちは特殊だから」と。

 この2つに加え、管理職同士の仲が良好でない場合などに、「あの部長の成功事例を、そのままうちの部でやる必要なない」などと社内政治まで絡んできてしまうと、余計に事態は膠着してしまいます。

巻き込み型より早くてラクな「乗ったもん勝ちアプローチ」

 あなたが働き方改革の担当者なら、こんな面倒くさい昭和時代のアプローチは忘れましょう。社会的使命を終え死んだはずのゾンビです。

 全社を巻き込んで合意形成を得ようとしても、「総論賛成、各論反対」にしかなりません。抵抗する現場はいったんほったらしにしましょう。説得に時間と労力をかけるのではなく、まずは小さな取り組み事例でいいので、まず1つバックアップし、それを成功させましょう。それができたら、この成功例を社内外に宣伝しまくるのです。これを続け、成功例が3つ以上になると、社内の空気感がガラリとが変わるはずです。「この取り組みの流れにわが部署も乗らないと損だ!」となれば、抵抗していた部署も何もなかったかのように手のひらを返してきます。今からの時代は、この「乗ったもん勝ちアプローチ」が効くのです。

まずは「1人」に資源と労力を注ぎ、とにかく成功させる

「乗ったもん勝ちアプローチ」のポイントは2つ。

 1つは労力の配分を変えること。全社全体に使っていた労力を、協力してくれる部署や人だけに、ピンポイントで注ぐのです。

 2つ目は成功した方法や事例の押し付けをしないこと。ただただ「すごい!」と成功例を褒めまくることです。成功の芽が出ると、会社は他の部署にも同様に展開するように通達や命令を出すクセがありますが、「乗ったもん勝ちアプローチ」ではこれはご法度。

「いまから勉強しようと思ったのに『勉強しろ!』と言われたからやる気なくなった」という心理と一緒です。ひたすら褒めまくることで、向こうから「それ面白そう。教えて!」と飛びつかせるのです。

 実例を挙げてコツを解説しましょう。育休明けの時短勤務者の配属を希望する部署が殺到し、その結果、全社の残業時間が減ったS社の例をもとにコツを解説します。

人事は社員がびっくりするほど協力せよ

 S社はIT企業です。社員も若く、残業も厭わない「会社と人が好き」という人材に溢れています。そのため育休明けで時短勤務で復帰した女性社員は、残業ができない自分を責め、次第に仕事に対するモチベーションが下がる傾向にありました。周囲からの「時短だからしょうがない、協力しよう」的な視線や態度も、時短勤務者には逆に辛いものでした。こうしたことからS社では、周囲からの視線と自責の念に耐え切れなかった優秀な女性社員の退職が相次ぐ事態となりました。多かれ少なかれ、どの会社にもある事例ではないでしょか。