「一人前」に育つための最初の1カ月を

 ただし、「一人前」となると、話が違ってくる。仕事のすべてを理解し、こなせるようになっていることを「一人前」と呼ぶからだ。総合力においても、上司と引けをとらなくなった状態を「一人前」と呼ぶなら、3年くらいの時間がかかるのは当然だ。

 1年目は初めてのことばかりで、覚えるのに必死。2年目は、一度は経験したことのあるものを、思い出し思い出し、こなす時期。3年目は、過去にやってきたことが、自分の中でも当然視できるようになって、自分の仕事以外にも目を向ける余裕が生まれて、全体を俯瞰できるようになり始める時期。

 こうして、仕事というものが一通り理解できるのに、3年かかる。どんな仕事も、業界全体のことまで頭に入るのに、それくらいの時間は必要だろう。自分に与えられた業務だけでなく、その周囲のことにまで目を配ることができるようになるのが「一人前」だとするなら、やはりそれなりの時間が必要だ。

「自分の頭で考えて動く部下」の育成には1~3カ月の時間があれば十分だが、その業界で、上司とも引けを取らない一人前に育つには3年ほどかかる。拙著を読んでいただくときに、そうした注意をしながら読んでいただけるとありがたい。

 そして、日本の職場が、1カ月、できれば3カ月くらいはみっちりと、部下の指導に費やせる余裕を確保してほしいと願っている。そうすれば、比較的短期間に「即戦力」として育つだろうし、しかも自分の頭で考えて学び、成長し続ける人材となるから、3年もすれば勝手に一人前の人材として育つだろう。そのとき、会社にとって頼もしい人材になってくれている。

 そのための最初の1カ月を惜しむべきではない。