しかし多くは、明らかにうまくいかない、ただの失敗だったりする。その場合、「なるほど、そう考えてのことだったんだね。面白いしなかなか理にかなっているけれど、このまま時間がたつと、これはどうなるかな?」と聞いてみると、本人が「あ!」と気がつく。うまくいかない理由に気がつくのだ。「これがこうなって、うまくいかなくなります・・・」「そうだね、だとすれば、ここはどうしたらいいと思う?」と、仮説を立ててもらう。

 こうしたやり取りを、単純作業に思えることでも、丁寧に繰り返すようにしている。すると、ルーチンワークとはいえ習得するにはそれなりの時間がかかりそうな、工程の多い仕事でも、案外早く習得してしまう。うまくいかない理由を、失敗や失敗の擬似体験を重ねることで、深く理解し、仕組みも熟知できるから、習得がかえって早くなるのだ。

 しかも、「教えない」指導法、「失敗させる」指導法は、「こうしたほうがうまくいくかも?」という、改良を重ねるクセがつく。私が正解を教えるのではなく、共によりよい作業を探し、見つけていくという指導をつきっきりで重ねたものだから、「この作業で本当に問題ないのだろうか? よりよい方法があるのではないか」と考えるクセがついているのだ。

 そんな風に考えるクセがつくようにするには、だいたい1カ月ほど丁寧に指導すれば十分。長くても3カ月ほどあればよい。すると、以後はほとんど指示を与えなくても「これをやっておきます」と、自分から動き、仕事をこなしてくれるようになる。実に助かる。

 編集者の方に、「自分の頭で考えて行動するように部下が育つには、どのくらいの期間が必要ですか?」と聞かれたことがある。「大体1カ月ですね」と答えると、ビックリしていた。一人前に育てるには3年かかると言っているのに比べて、ずいぶん短いと思ったのだろう。

「最初の1カ月は、手間暇かかります。教えないと言ったって、危険がないように見守らなきゃいけないんですから。でも、その1カ月、手を抜かないで指導すれば、後は楽になります。1カ月すれば、任せた作業は指示しなくてもやってくれるようになります。3カ月もしたら、まったく新しいことをお願いするとき以外は、指示する必要もほとんどなくなります。自分で考えて動いてくれるから」

 だから、「自分の頭で考えて動く部下」に育てるには、短くて1カ月、長くて3カ月だと考えてもらってよいだろう。