(2)ラルフ・タウンゼントの警告

 タウンゼントはコロンビア大学卒業後、新聞記者、大学講師を経て外交官となり、カナダから1931年に中国に赴任する。上海、厦門、福州で領事として2年勤務する。

 中国に対する知識をほとんど持たずに赴任した実体験から、中国人の生き方や社会観、国家観などが自分の国と著しく違うことを知り、同時に米国が行っている援助や布教活動は全く無意味なものであると考え、外交官を2年で辞職する。

 中国の本当の姿を知るのは宣教師、事業家、外交官らであるが、宣教師と事業家は本国からの援助や事業継続のために真実を覆い隠し、外交官は美辞麗句の建前報告をする一方で、日本の脅威のみが誇張されたという。

 中国の本当の姿を米国人に知らせる必要があるとして『暗黒大陸 中国の真実』(1933年)を書き上げる。

 その後も大学講師の傍ら米国の極東政策のあるべき姿を示し、米国人の間違った日本観、中国観を執筆や講演・ラジオで糾すことに明け暮れる。

 ルーズベルト大統領が進めている極東政策、なかんずく対日政策の誤りを質すものだけに、言論弾圧にも似て出版も放送も制約され、自宅あてに希望冊数などを寄せた者へ配送するなど大変な窮状の中でやらざるを得なくなる。

 サンフランシスコのラジオ局から放送された原稿などを集めた『アメリカはアジアに介入するな!』では、中国発信の嘘を米国が拡大発散していく状況を、軍隊の規模や商務省の統計などを活用して明らかにしている。

 当時の米欧諸国は「狂犬病的日本軍国主義の恐怖にさらされている」という話で持ちきりであるが、タウンゼントは「いかなる証拠があっての言い分か?」と訝る。

 そして「最大限入手可能な中立国の資料を総合して弾いた兵力」を、中国225万人、ソ連130万~150万人と紹介し、同時期の日本の常備軍は列強中最小の25万人だという。

 しかも、中国とソ連は合体し400万人の兵力と圧倒的優位な資源で日本に対処してくる恐れがある。これでどうして「(日本が)世界征服を企てる」と言えるのかと疑問を呈する。

 日本は「米国を脅したことは一度もない」し、「どこの国よりも米国に対して丁重であり、借金をきっちり返済する唯一の国である」と事実に基づいて言う。

 軍国主義ばかりでなく、日本の印象を悪くするためにありとあらゆる偽情報、例えば最大の海軍増強国、独裁国家、未開の国、侵略国家などが流されているという。

 他方で、「民主主義の中国」、「平和愛好国家中国」と称揚し、「孤立するアメリカ」と際立たせて、すべての原因が日本にあると言わんばかりの一色に染め抜かれた状況に言及する。

 こうした「反日アジは、中国の領土を保全しようとして起きたものでないことは明らか」という。