安藤氏はチキンラーメンの開発に入る際、おいしさ、保存性、調理のかんたんさ、手ごろな値段、衛生的で安全という、新しいラーメンに求める5つの条件を先に決めたそうです。

 当時としては極めて高い基準ですが、裏を返せば「これさえクリアできれば必ず売れる」と“確信”の持てる水準です。こうした明確な目標と、目標に裏打ちされた確信があったからこそ、失敗を繰り返しても疑いの気持ちを持つことなく、実現に向けて執念を燃やすことができたのではないかと思うのです。

安藤百福とホリエモンの共通点

「事業化できないアイデアは、単なる思いつきにすぎない」。これも安藤氏の言葉です。良いアイデアも実現させなければ事業としては意味が無い。アイデアを実現させるためには失敗にめげず挑戦し続ける必要がある。そのためには「必ず実現する」という確信と執念が必要となるのです。

 ホリエモンこと堀江貴文氏も、「アイデアに価値は無い、いかに早く実行するかが重要」と、同様の発言をしています。終戦後の何もかもが不足していた半世紀前に成功した経営者と、ITが発達した現代の経営者が同じ発言をしているの極めて興味深いところです。

 ドラマでも描かれていますが、終戦直後に社会貢献も兼ねた製塩業を始めたこともありました。街には仕事の無い若者や戦争孤児があふれ犯罪に走るなど治安が低下していました。安藤氏は偶然面識があり、のちに総理大臣になる佐藤栄作氏から「若者が職もないまま街をぶらぶらしている、なんとかならないものか?」と相談を受けていました。当時の日本は極度の塩不足に陥っていた状況で、安藤氏は若者に食事と塩作りの仕事を与えることで、街の治安改善に貢献したといいます。

 佐藤栄作氏から相談を受け、そこから塩作りを思い付いて実行へ至るまでを見ると、チキンラーメンやカップラーメンの事業で大成功するよりずっと以前から、安藤氏にはアイデアを思いつきで終わらせない実行力がすでに備わっていたようです。

 ドラマ『まんぷく』で萬平は、深刻なシーンであっても前向きさと強い意志を保っています。それは、監督やプロデューサーが、事業に失敗して無一文になっても「経験が血や肉となって身についた」と考え、よりよい未来を描こうとしていた安藤氏の前向きな確信を、萬平の人間性のベースに描こうとしているからでしょう。

 安藤氏は「食足世平(しょくそくせへい・食足りて世は平らか)」、つまり美味しい食、安全な食があってこそ世の中は平和であるという理念を掲げました。一見すると大げさな表現と思うかもしれませんが、そこには戦中・戦後の壮絶な経験を通じて得た、食に対する彼の切実な想いが込められているのです。

執筆協力:シェアーズカフェ・オンライン

※参照『安藤百福 私の履歴書 魔法のラーメン発明物語 』(日経ビジネス人文庫)