先日、「Yahoo!ノンフィクション大賞」の第1回受賞作が決定した。角幡唯介さんの『極夜行』である。氏は同著のなかで、北極圏での4カ月にも及ぶ極夜体験を臨場感そのままに記している。日が上らない暗闇の中で、死を意識すること幾度。裏返せばそれは、自分の生を見つめ直す作業となる。

 テーマに反して、ユーモアあふれる筆致はもはや、著者その人にしか書けないオリジナルのブランドのようだ。冒険、探検の醍醐味が失われた現代社会で、著者の生きざまは同時代に生きる私たちへ、ある種の疑問を投げかける。賞の方向性を決める第1回作品として、もっともふさわしい本が選ばれたのではないか。そんな感想を持った。

 今回紹介する本は、同じくノンフィクションにカテゴライズされてはいるが、その対極にあるといっていい。我々が生きる「現在」の異世界を同時進行で切り取る『極夜行』に対し、「過去」を想像力によって補てんし、証明するという手法を取りながらノンフィクションの枠内に留まる『死に山』という作品。「生」の価値を問う『極夜行』に対し、「死」の理由を探る『死に山』。対照的な手法で綴られた本書を、ノンフィクション大賞の次に読む本として強くすすめすると同時に、この『死に山』を第2回のノミネートに推薦したい。

ドニー・アイカー 『死に山 世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ峠事件》の真相』

「死“の”山」ではいけなかった。

 読み終えて感じることは、この本のタイトルは「死“に”山」でなければならなかったのだという共感と、確信である。