本当に読むに値する「おすすめ本」を紹介する書評サイト「HONZ」から選りすぐりの記事をお届けします。
糸魚川市にあるフォッサマグナミュージアム

(文:吉村 博光)

 部活動で調子が良いときは、勉強の調子も良かった記憶がある。無理やり敷衍すると、読んでいる本が面白ければ、現実世界もバラ色ということになる。その時の本は、現実を忘れられるものがよい。没入感の高い小説も良いが、天文や考古学など気宇壮大な本も良い。今回は、そんな読書のご利益を得られる、素敵な一冊をご紹介したい。

 そのタイトルは『フォッサマグナ』。日本のど真ん中を南北に走る、巨大な地溝帯について書かれた本だ。著者は鵺(ぬえ)という怪物に例えているが、名前を聞いたことはあっても実態がよくわからないものの代表選手ではないだろうか。私は、本を読む前、フォッサマグナとは糸魚川と静岡を結ぶ線(断層)のことだと思っていたが、それすらも大きな誤解だった。

フォッサマグナとは線ではなく「地溝帯」

 私がイメージした糸静線は、フォッサマグナの西の境界でしかない。東の境界はまだはっきりとわかっておらず、一説では柏崎から千葉に至る線だとも言われているそうだ。このようにフォッサマグナとは、線ではなく、一定の広さをもった「地溝帯」のことなのである。範囲だけでなく、成り立ちをはじめ、その多くが謎に包まれているそうである。

 本書の楽しさは、わかっていることを伝えるだけじゃなく、その謎解きに挑んでいる点にある。まるでミステリーを読むように、一気に読めるのだ。用語にはカタカナが多いが、海外ミステリーだと思えば邪魔になるまい。日本各地で地震が頻発していることや、日本列島の誕生に関するテレビ番組を観たことで、私の地質学への興味は高まっていた。