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(文:冬木 糸一)

 ブラック・ハンドという凶悪な犯罪結社が19世紀から20世紀にかけて存在した。

 彼らの主たる構成員はイタリアからアメリカへと移住した移民たちで、ブラック・ハンドというのは単一の組織への名称ではなく、小規模なものから大規模なものまで含めた、複数のギャング組織の総称であったようだ、本書はその犯罪結社の勃興から終焉までを追った記録になる。『ブラック・ハンドは悪名高い犯罪組織だった。「あの極悪非道な、悪魔のように邪悪な組織」と呼ばれ、恐喝、殺人、子供の誘拐、大型の爆弾による爆破事件などを行っていた。

ニューヨーク市警察ペトロシーノの活躍

 ブラック・ハンドの存在が劇的なものになっているのは、彼ら自身の行動に加えてそれに敵対した人々の存在も大きい。中でも本書の中でメインで語られていくのは、イタリア系のアメリカ人にしてニューヨーク市警察のジョゼフ・ペトロシーノの活躍だ。彼は《ニューヨーク・タイムズ》からは「世界一のイタリア系捜査員」と呼ばれ、故国のイタリアでは「イタリア系のシャーロック・ホームズ」と呼ばれていたという。

四十六歳にしてすでに「パリ暗黒街の迷路を行くジャヴェール警部やロンドン警視庁の名刑事も顔負けの活躍をし──まさにコナン・ドイルが想像したのと同じような血湧き肉踊る冒険をしていた」』これについてはさすがに誇張表現だろうと最初は懐疑的に読んでいたが、実際に存在している彼のエピソードの数々、賄賂を決して受け取らない、仕事一筋の高潔さは、シャーロック・ホームズかどうかはともかくとしてヒーローにふさわしい。

 ブラック・ハンドは先に書いたようにイタリアからの移民たちの犯罪結社であり、その存在がアメリカにおいてイタリア系移民への差別の拍車をかけていたのはいうまでもない。つまり、同じくイタリア系であるペトロシーノは警察としての職務だけではなく、イタリア系移民の名誉の認知のためにも戦う必要があったのだ。19世紀末から20世紀初頭は、イタリア系であるだけでまともな職につくことも難しかった時代であり、ペトロシーノは警察で確固たる立場を築き上げた点でも(それでも、警察内部で強烈な差別にあい続けるわけだが)ヒーローだった。