これら新興企業は、その成長スピードも伝統的な大企業と比べて著しく早いのが特長です。例えば、一般的なフォーチュン500の大企業が時価総額10億ドルに至るまでに要した期間は平均で約20年であるのに対し、現アルファベット傘下のグーグルは、半分の10年以下で10億ドルに至っています6

時価総額ランキングの顔ぶれが変わらない日本

 一方、日本国内に目を転じると、事情はだいぶ違ってきます。まず、上述の時価総額ランキングで新興企業が台頭するような大きな変化は見られません。また企業価値の総額も10年前とほぼ同額に留まったままです。

 これは、大企業が得意とする「持続的なイノベーション」のほうが、新興企業による「破壊的なイノベーション」7よりも成果を上げていると捉えることができます。

 見方を変えると、日本では新興企業が伝統的な大企業と肩を並べるほどに成長していないこと、また新興企業を輩出する土壌が整っていないことを示唆しています。

 その原因をマクロレベルで見てみると、例えば米国のNASDAQと比較して、マザーズなどの日本の新興株式市場が小規模であり株式新規公開時の資本アクセスが限定的であることや、日本の大企業には企業系列外の小規模企業との取引開通の難しさが残ることが挙げられるでしょう。

 さらに、日本には大企業偏重の社会慣習や雇用先の志向性があり、優秀な人材は安定した大企業に雇われていることが多いことなども挙げられます8

 次に、ミクロレベルで大企業とスタートアップの企業間の関係性に目を向けます。

 日本企業では、オープンイノベーションの取り組みが欧米企業と比較して3割程少なく、特に、起業家・スタートアップと連携したオープンイノベーションの活動は、欧米企業と比較して少ない状況です9。これは、オープンイノベーションを通じた協業において、日本の大企業の目的意識、文化、仕事の進め方が、スタートアップのそれと異なるためです10

大企業の自前主義がオープンイノベーションを潰す

 日本の大企業における阻害要因の特徴は、大きく2つあります。1つはオープンイノベーション版の自前主義(英語:Not Invented Here Syndrome)の存在です。

 つまり、これまで自社内部で培ってきた既存の技術・サービス、事業、業務を自然に優先し、オープンイノベーションの取り組み、他社の技術・サービスの活用を限定してしまっているのです。このような状況では、テーマ自体や、技術・サービスについて、ついつい自社が取り組みやすいものにしてしまい、オープンイノベーションに取り組んでも新規性を欠く結果を招いてしまいます。

 もう1つは、スタートアップなど連携先との協調の難しさです。大企業とスタートアップではそもそも企業規模が異なるので、スピード感や投じられる人的・財的資源量に大きな違いがあります。それなのに、それぞれの道理を相手に押し付けてしまうことが少なくありません。そうなってしまうと、協業プロジェクトが遅延したり、オープンイノベーションのメリットであるスピードを毀損したりする恐れが出てきてしまうのです。

 これらの状況によって、先進的新興企業と伝統的大企業の間にギャップが生まれ、両者の協業が進まないのです。

 そこで次回は、これらのオープンイノベーションの阻害要因を、日本企業がどのように克服すべきかについてご紹介したいと思います。

6 Salim Ismail et al, Exponential Organization, 20160704セミナー資料より​

7 破壊的・持続的な技術やイノベーションの詳細については、Clayton M Christensen(1997) The Innovator's Dilemma: When New Technologies Cause Great Firms to Fail, P9等を参照した​

8 Kenji Kushida(2016), Japan’s Startup Ecosystem: From Brave New World to Part of Syncretic “New Japan”,Stanford University, Freeman Spogli Institue for International Studies, Asian Research Policy , Vol. 7 No. 1, page(s): 67-77

9 Yoneyama et al(2017), 日米欧企業におけるオープン・イノベーション活動の比較研究、『学習院大学 経済論集』第54巻 第1号(2017年4月) P41,44,P45​

10 Accenture Ventures, Accenture Research and G20 Young Entrepreneurs Alliance (2015), Harnessing the Power of Entrepreneurs to Open Innovation-Country cut, P18, P20, P21