メジャーではスタットキャストシステムの導入で、ホームランの打球角度など、プレーの細かい「データ」がすぐに提供できるようになった(MLB.comより)。

 サンディエゴ・パドレスの顧問として、日米の野球に通じる斎藤隆さんは、昨今の野球事情が大きく変わったことを実感している。前回紹介したスカウト会議におけるバトルもそうだが、選手やチームを成長させるさまざなまツールが登場したことがそのもっとも大きな理由だ。特に「データ」の量はすさまじい。(田中周治、スポーツライター)

ホークスが作った最強のスタジアム

 米国球界を席捲しているデータ野球の波は、日本球界にも確実に押し寄せてきている。 

 なかでも今年、日本一に輝いた福岡ソフトバンクホークスは、日本球界で最も先端的なデータ野球を取り入れているチームといえるだろう。

 本拠地のヤフオクドームには、トラックマン(レーダーによってボールの速度や軌道を計測する装置)だけでなく、高性能カメラの映像で選手の動きを解析するシステムが導入されている。つまりメジャーリーグの「スタッドキャスト」(レーダーでボールの速度、軌道などを解析するトラックマンの機能と、高性能カメラで選手の動きを解析するトラキャブの機能を合わせたシステム)と同等のデータを活用できる環境にある。

 また、そのシステムはヤフオクドームのみならず、2・3軍が使用するHAWKSベースボールパーク筑後にも導入されているほどだ(この施設はすさまじく、例えば24時間稼働の32台のカメラを設置され、チームから支給される選手のiPadに配信、すぐさまテレビでもチェックが可能だ)。

 一方、日本シリーズで対戦し、セ3連覇を達成した広島カープは唯一、導入を果たしていない。この事実は、カープが数字ではないデータ(選手の性格など)や経験値(スカウトの選手評価眼など)を上手に活かすことで強いチームを作り上げられることをも示している。
 
 さて、この現象をどう捉えていくべきなのか。現在サンディエゴ・パドレスで顧問を務める斎藤隆さんは、データの有効性を認めつつも、「効率(データ)面に走りすぎるとき、野球そのものの魅力がどこにあるのかを考えなければいけない」と警鐘を鳴らす。