首相は「大国である中国と、それを追う日本が協力し、時に競争することも必要」と述べており、財界も「戦略的互恵関係に民間の立場から貢献する」と表明したことから、日本政府は軍事利用されかねない港湾開発を対象外に指定しつつ一帯一路に関する日中民間経済協力指針を策定する。

 こうした最中の今年5月9日、李克強首相が来日した。首脳会談で一帯一路に関する第三国でのインフラ整備協力を具体化させる官民協議体の設置で合意し、10月の安倍首相の公式訪中で第三国でのインフラ共同投資など官民で52件の協力文書を交わした。

 こうした経緯を経て、安倍首相は日中新時代の3原則を打ち出したもので、中国は「3原則」という用語を使用していないが、十分な合意があったとみていいであろう。

安倍訪中は媚中外交に終わったか

 11月1日付「産経新聞」オピニオン欄掲載の「China Watch」で、「日中首脳会談で得した中国」と評したのは石平氏で、安倍訪中は媚中外交に終わったとの見立てのようだ。

 中国側が得したものとして、通貨スワップ協定、第3国での経済協力、中国経済の延命、さらには尖閣諸島への中国の挑発を議論に乗せなかったことを挙げている。

 金融危機発生の可能性は中国側が高いので、通貨スワップ協定は中国側を助けることになる。

 一帯一路はEUやアジア諸国からも反発されているが、首相は「潜在力のある構想」と評価し、第3国での経済協力という形での関与は中国にとって干天の慈雨であるという。

 米国との貿易戦争で経済の減速が顕著となり、企業や国民の間には沈滞ムードが広がっていた。そこに安倍首相が「協調」を語ったことは国民の失望感を払拭し、中国経済を延命させるカンフル剤になるという。

 また、安倍訪中の直前に連日、中国公船が尖閣諸島周辺の接続水域に侵入したが、挑発行為の防止策は議題にすらならなかった。こうしたことから、経済の減速で深刻な打撃を受けつつあった習政権は再浮上の自信を深めたという。

 他方で、日本側の外交上の成果と見えるものは日本産食品の輸入規制緩和を求めたこと、拉致問題解決への協力の意思表明を引き出したことであるが、石平氏は「単なるリップサービス」の可能性があるとみる。

 中国を利する行動は新植民地政策に加担する日本とみられ、また対中冷戦状態にある米国にとっては中国接近が裏切りにみえ、同盟に亀裂を生じさせかねない。