第3条では、善隣友好の精神を説き、さらに平等・互恵・内政不干渉の原則を認めたうえで「経済・文化関係の発展と国民の交流促進」を謳った。

 日本はいつも原則や条約などでの約束事を守る努力をするが、中国側は靖国問題や尖閣諸島、東シナ海ガス田問題などでしばしば約束違反の行動をとってきた。

 WTO(世界貿易機関)加入後も中国は違反を繰り返して経済発展と軍事力の近代化を図り、反省するどころか、「太平洋は米中両国を受け入れるに十分である」などの発言で覇権志向をむき出しにし、一帯一路構想で具現化を図ろうとしている。

 こうした覇権的言動や自由、民主主義、人権、法の支配といった普遍的価値観の無視は、17世紀から続くウェストファリア体制に基づく国際秩序の転換を目指しているとしか思えない。

3原則は合意のもの

 2006年10月の初外遊で中国を訪問した安倍首相は、胡錦濤・前国家主席との首脳会談で「戦略的互恵関係」を打ち出す。

 「両国はアジアと世界に対して厳粛な責任を負う認識の下、国際社会に貢献する中で共通利益を拡大し、日中関係を発展させる」というものであった。

 福田康夫政権は「『戦略的互恵関係』の包括的推進に関する日中共同声明」を発表し、「政治的信頼の増進」「人的・文化的交流促進と友好感情の増進」「互恵協力の強化」「アジア太平洋並びにグローバルな課題への貢献」として、この概念を具体化した。

 「共に努力して、東シナ海を平和・協力・友好の海とする」と謳ったのも、この共同声明においてである。北京オリンピックを3か月後に控えた中国の日本懐柔策でもあったようだ。

 安倍首相は第2次安倍政権でも「戦略的互恵関係」を日中関係の基礎と度々強調しており、中国の掲げる一帯一路をテーマとした国際協力サミットフォーラムでも戦略的互恵関係に触れてきた。

 中国の対日姿勢が軟化し始めた日中国交正常化45周年記念行事(2017年9月)頃から、首相は対中関係改善に意欲を示すようになる。

 同年11月には習近平国家主席および李克強首相と第三国での国際会議で立て続けに会談し、戦略的互恵関係に基づいて経済協力や朝鮮半島問題での連携で一致したと語っている。