モスクワのボランティアテントにいたボランティアたち

 本年6月14日から7月15日まで、ロシアで初めてとなるサッカーW杯が開催されたことは、まだ記憶に新しい。

 この大会は、ロシアがホストとなり、世界から多くのゲストを迎えるスポーツイベントという意味で、2014年のソチ冬季オリンピックに次ぐ大イベントであった。

 筆者は本年12月にW杯ロシア大会を振り返るシンポジウムに、スポーツ評論家の玉木正之氏、元日本代表チームドクター福林徹氏、サッカージャーナリスト大住良之氏らとともに、登壇させていただく予定だ。

 本稿ではそのシンポジウムでも触れる予定のテーマの1つ、W杯におけるボランティア活動についてリポートしてみたい。

石油・ガスを売り込むためのスポーツ戦略

 冒頭からの経済論をお許しいただきたいが、ロシアという国は経済面から捉えると、国家収入の6割以上を原油ガスなど、エネルギー資源の輸出に頼るという一極型経済である。

 この経済体制では、輸出先がロシア産のエネルギー資源を購入してくれることが国家経営の大前提であり、ソ連時代のように鉄のカーテンで西側と遮られていた時代とは、国家存在の流儀において大きく異なる。

 2000年以降のロシア経済進展は、エネルギー価格の上昇に支えられていた部分が大きく、決してウラジーミル・プーチン大統領の手腕にのみ帰せられる話ではない。

 ある意味、プーチン氏は幸運だったのだ。その幸運がいつまでも続くものでないことは、その後のロシア経済の成り行きが示している。

 ロシアが欧州北限の資源大国として、西ヨーロッパのエネルギー輸入国と取引するには、西欧世界に「普通の国・信頼できる取引先」として仲間入りを果たすことが不可欠だ。

 その方策の1つとして利用されたのが、2014年のソチ冬季オリンピックだった。