中国への“制裁”を繰り出す米商務省(資料写真、出所:Wikipedia

(湯之上 隆:技術経営コンサルタント、微細加工研究所所長)

米国が中国に強烈なビンタを2発見舞う

 その驚きのニュースを筆者は、新大阪に向かう新幹線の電光掲示板で見た。その内容は、「米商務省が10月29日、中国の半導体メーカー、Fujian Jinhua Integrated Circuit (JHICC)に対して、半導体製造装置など米国製品の輸出を規制する」というものだ。

 JHICCは、習金平国家主席の国家戦略策「中国製造2025」のもと、台湾のファンドリーUMCの協力を得て、中国国内でDRAM工場を立ち上げている半導体メーカーである。JHICCは、昨年(2017年)10月に月産10万枚のDRAM工場を立ち上げ、2018年に装置搬入を開始し、2019年以降に現在最先端の1Xnm DRAMを量産する計画である。

 DRAMの製造には、米アプライドマテリアルズ、米ラムリサーチ、米KLA-Tencorなど米企業の製造装置が必要不可欠である。もし、JHICCが米国から装置を導入できないとなると、DRAM製造は相当困難になる。

 さらに11月1日、米連邦大陪審が、米国メモリメーカーのマイクロン・テクノロジーから企業秘密を盗み出した産業スパイの容疑でJHICCと台湾UMCを起訴した(日経新聞11月2日)。

 米マイクロンは2017年に、JHICCに技術協力しているUMCが企業秘密を持ち出し、JHICCに渡したとしてカリフォルニア州の裁判所に提訴していた。これに対してUMCも2018年1月に、マイクロンの特許侵害を提訴した。そして、中国の裁判所は7月、マイクロンに対して中国での製品販売を差し止める命令を出していた。

 このような状況下で、米国が中国に対して強烈なビンタを2発繰り出したわけだ。今回の米国による中国への制裁は、単なる脅しでなく、本気である(ように見える)。

 本稿では、まず、米中半導体摩擦の経緯を振り返る。次に、米国による中国への制裁が、中国メモリの脅威から、米国唯一のメモリメーカーであるマイクロン・テクノロジーを守るための措置である推論を述べる。その上で、今回の米国の制裁の波及効果を論じたい。

米中半導体摩擦の経緯

 図1を用いて、これまでの米中半導体摩擦の経緯を説明する。この経緯の途中までは、2018年7月11日のJBpressの記事「ハイテク貿易摩擦で中国が米国に2発目の反撃ビンタ」(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/53505)で報じた。重複する部分もあるがご容赦願いたい。