頭には宝冠(ほうかん)を巻く。宝冠とは、幅広のはちまきを、まず頭巾(ずきん)のようにかぶり、余った布でもって後頭部と前頭部のまわりを巻き、側頭部の両サイドにネコ耳のような形をたて、冠のようにするものである。これで全身白づくめとなる。

すべて先達(せんだち)の指示に従う世界

 山伏修行体験では、何をするにもひたすら先達(せんだち)の指示に従って行動することが求められる。修行期間中は山伏装束に持ち物といえば金剛状だけ、腕時計やスマホなど電子機器類はすべて預けることになっているので、正確な時間も分からない。

 この行動姿勢を何よりも象徴的に表現しているのが、「うけたまう」(発音は、う・け・た・もー)という返事だ。「うけたまう」とは、漢字で書けば「請け給う」ということになるだろう。英語でいえば、 "Yes, sir !" である。

 山伏は、先達から何か言われたら、「うけたもー」という答えしか存在しない。それも腹の底からの大声で答えることが求められる。「NO」とは絶対にクチにできない存在、それが山伏というものである。実際問題、山のなかをひたすら歩く「抖(と)そう行」だけでなく、すべての行(ぎょう)は先達である指導者に従わなければ、きわめて危険である。フォロワーシップの重要性である。

 まるで体育会のような感じだが、高校も大学も体育会で過ごしてきた私には、特段の違和感はなかった。むしろ、余計なことは一切考えずにカラダを使うことだけに集中できた3日間は、ある意味では、たいへん貴重なものであったといえる。カネを払ってまでも参加する意義はそこにあるというべきだろう(なお、2018年実施の個人参加の2泊3日コースは、往復の旅費交通費を除いて3万2000円)。

朝から晩までてんこ盛りのスケジュール

 私が参加した8年前の2泊3日の「山伏修行体験」のスケジュールを記しておこう。朝から晩までスケジュールがてんこ盛りだ。山伏の世界の用語は独特で、一般の人にとっては何を意味しているのか分からないので、後ほど解説を加えることにする。

[1日目]

13:30 「いでは文化記念館」に集合、着替え、峰入り式。
14:00 講話
14:30 水垢離
15:00 抖(と)そう行
17:30 床固め  
18:30 壇張り
19:00 抖(と)そう行
21:30 忍苦の行
22:00 宿入り 

[2日目]

4:00 起床 
4:30 水垢離
5:00 床固め
6:00 壇張り
7:00 月山 抖そう行
15:00 滝うち
18:00 床固め
19:00 天狗相撲
20:00 抖そう行
21:30 忍苦の行
22:00 宿入り

[3日目]

4:00 起床
4:30 水垢離
5:00 床固め
6:00 羽黒山抖そう行
9:30 出世式
10:00 終了式
10:30 精進落とし
11:00 解散