事業承継は経営者のマインドがすべて

 そういう奥村さんは、ある2代目経営者の話をしてくれた。

「貿易会社の社長(仮名Aさん)でした。親の事業を継いでいたのですが、事業自体が下火になっていて、商売の環境を見ると先々回復させるのも難しい。Aさんの会社だけではなく、業界全体が非常に厳しい立場にあったのです」

 Aさんがやってきた理由は、この先会社をどうするか、誰に継がせるか悩んでいる、というもの。「(自分が退いたあと)、長く続けるのは難しいかもしれない」という認識はあるものの、何より強かったのが「自分の代で終わらせたくない」という相反する思いだった。

「ヒアリングをすると、今、会社をやめれば多少のお金も残せるという状況でした。けれどAさんは、会社を閉じることには強い抵抗があった。親から継いだことも関係していたのでしょう。最初は、悩みを聞くばかりでなかなか決断ができなかったようです。しかし、カウンセリングを何度も繰り返していくうちに――Aさんには子どもがいなかったのですが、実は子どもをつくらなかったということがわかりました。自分自身が半ば家業である輸入業を押し付けられて継いだので、子どもに同じ思いをさせたくなかったというのです。そんな思いがあるので社内の人間に継がせることが、どうも心に引っかかるということでした」

 話をしていくうちに自身がそもそももっていた「継ぎたくなかった」という原点に思い当たったAさんは廃業を視野に入れるようになった。

 廃業は倒産と似て非なるものだ。

 端的に言うと、廃業は自主的に会社を閉じることだが、倒産は強制的だ。債務を整理し、誰にも迷惑をかけない形で廃業をすること、それは自主的に終わりの形をつくっていくこと。奥村さんは「自主的に終わりの形を作ることこそ尊い」と話す。

 Aさんの選択は「廃業」かもしれないが、必ずしもそうすべきというわけではない。早めに対応をすることで、その形がたまたま事業を継がせることかもしれないし、売却や廃業であるかもしれないということなのだ。

「いずれにしても、自分自身の社長としてのキャリアをしっかり締めくくろうとする姿勢が大切です。その結果、誰かに継がせようとする社長もいれば、自らの手で会社の幕を閉じようとする社長がいてもいいのです。人に迷惑をかけないために自ら落とし前をつけるという意味での廃業に、なんら後ろめたさを感じる必要はないでしょう」

 最終的な判断はともかく、このAさんのケースのように、社長の心の中というのは本当に複雑で、客観的に見て良い悪いと簡単にアドバイスできるものではないと奥村さんは言う。