「それはファシスト、共産主義、自由主義(リベラリズム)の3つのストーリーだった」

 「第2次世界大戦で人類はファシストを打ち負かした、1940年代後半から80年代後半にかけては世界は共産主義対自由主義との戦場と化した」

 「そして自由主義のストーリーは人類の過去と未来を考えるための支配的な手引書となった」

 「ところが2008年の世界的な金融危機以降、人々はこの自由主義のストーリーに幻滅を抱き始めた」

 「(国境沿いに設けられた)壁が再び登場した。移民を拒み、自由貿易合意を破棄しようとする動きが広がり、トルコやロシアのような表向きには民主的だったはずの国家が司法制度を軽んじ、報道の自由を制限し、反政府的な動きはすべて反逆行為だと攻撃し始めた」

 「2016年はどんな年だったか。自由主義の中核をなしてきた英米に自由主義に対する幻滅の波が押し寄せる兆候が出てきた年だった」

 「英国が国民投票でブレグジット(Brexit=英国のEU離脱)を決定し、この年、米国では(米国第一主義を掲げる)ドナルド・トランプ氏が大統領に当選したからだ」

 「(トランプ氏を熱烈に支持した)米中西部のケンタッキー州や(ブレグジットを支持した)英ヨークシャーに住む多くの人間は、自由主義的ビジョンはもはや好ましくないし、達成できないものだと考えていた」

 「ある者はこうした動きの背景には人種的、民族的、国家的、性別的特権を失いたくない旧態依然の階層的世界への回帰があるとみた」

 「また別の人たちは自由主義とグローバリゼーションは大衆の犠牲の上に進められてきたひと握りのエリートに権限を与える巨大なロケットに過ぎないと結論づけた」