事前に措置を施しておけば残せるケースがほとんど

「事業承継において、相続の問題が絡むことは非常に多い。そして相続は、いいモノだけではなく、悪いモノ、つまり負債も引き継がれる。そのことに留意していないケースがとても多いのです。佐藤さんのケースでは、社長が亡くなった時点で、まず相続するかしないかを熟慮するべきでした。場合によっては相続放棄という方法も念頭に置くべきです。プラスとマイナスをよく考えて、マイナスのほうが多いのであれば家庭裁判所に申し出るのも一案です」

 奥村さんは10年以上にわたり「事業承継」を扱ってきたスペシャリストだ。数百件に上る事例を目の当たりにし、つとに感じるのが、経営者たちの備えの甘さだ。

「佐藤さん一家の場合も、旦那さんがご存命の時点で”仕込み”を入れておければ、このような最悪のケースは防げたと思います。もちろん理想論ですが・・・、たとえば、あらかじめ会社を、良い部分と悪い部分で二つに分けていたら、負担が少ない良い部分だけを佐藤さんが経営することができたかもしれません。経営者の死亡時に、株式が相続以外の方法で他者に承継されるような”仕込み”も考えられます。そうすれば家族が相続放棄をすることになっても、議決権は行使できるので、迷惑をかけないかたちで会社を畳むこともできたでしょう。場合によっては売ることも可能だったかもしれません」

 理想的な流れで言えば「経営者が50代後半になったら事業承継について動き始めてほしい」と奥村さんは指摘する。70歳を超えて急にこの問題に直面し、動き出すと多くの場合で「何らかの事情で進まな」くなることが多いからだ。

「早い段階で動き出した社長ほど、しっかり次の形まで持っていけるケースが多いのは間違いありません。きっちりとした事業承継後の形でなくても、自分に何かがあったらこうしてほしいという備えはしておくべきです」