書籍にまでなった告別式の演奏

船橋市立船橋高校吹奏楽部(千葉)

 サッカー部や野球部などが有名な「市船」こと市立船橋高校は、実は吹奏楽部も強豪である。顧問の高橋健一先生は元サラリーマンで、吹奏楽や音楽の経験がないまま中学校の教員になり(担当教科は国語)、たまたま吹奏楽部顧問になったことから吹奏楽の世界にのめり込んでいったという異色の経歴の持ち主。2001年から市船で勤務している。

 多くの高校の吹奏楽部は4月に新入部員を受け入れて、春は基礎を高め、5月ごろから吹奏楽コンクールに向けて練習をスタートさせる。だが、市船では毎年6月に北海道で行われる”踊りの祭典”・YOSAKOIソーラン祭りに「吹奏楽部」として出演する。それまではよさこいの練習(ダンス)が主であり、ほとんど楽器を触らない日もある。よさこいによってチームワークを高め、部員たちポジティブな姿勢にするのがその狙いだ。吹奏楽界の「異端児」である高橋先生だからこそできる型破りな活動だ。

吹奏楽部とは思えない練習風景。学年で分けられたジャージは、世代の象徴となっている(著者撮影)。

 また、「部活ノート」も活用している。

 部員全員が部活用のノートを持ち、日々の練習で感じたことなどを記して毎週高橋先生に提出。先生はそれをすべてチェックし、自身で感じたことはプリントにして部員たちに配る。約150人の部員がいる市船で全員のノートに目を通すのは大変な作業だが、部員たちの気持ちや問題を把握し、即座に対処するには最良の方法だと考えているからだ。

 部活ノートを書くことが促すのは、部員たちが「とことん自分自身と向き合う」こと。高校生たちはとかくまわりの目を気にしたり、他者を批判したりしがちだが(大人も同じであるが)、高橋先生は「そんなときは、ベクトルを自分自身に向けろ。自分と向き合い続けた末に生まれるのが“自信"だ」というメッセージを部員たちに発信し続けている。

 こういった指導の結果、市船は吹奏楽コンクールやマーチングコンテストで優れた成績を収めているだけでなく、人間的に成長した部員たちは卒業後も強い絆で結ばれることになる。

 2017年1月、市船吹奏楽部OBのひとり、浅野大義くんが20歳の若さでがんでこの世を去った。そのとき、告別式にはなんと市船の現役部員やOB・OGら約160人が集結。高橋先生の指揮で別れの演奏を行ったのだ。このことはテレビなどでも取り上げられた。詳しくは中井由梨子著『20歳のソウル』(小学館)をお読みいただきたいが、そのような奇跡の告別式が実現したのも市立船橋高校吹奏楽部だからこそと言えるだろう。