吹奏楽は高校野球に勝るとも劣らない人気の部活だ。毎年10月に行われる「吹奏楽の甲子園」、全日本吹奏楽コンクールは発売即ソールドアウトになるほどプレミアチケットで、部員たちのモチベーションも甲子園並だ。

 100人以上の部員を抱える学校も少なくない中で、各校の吹奏楽部はよりよい音楽、よりよい部活動のために邁進する。「強豪校」を率いる顧問の先生たちの異色の指導法とは? 吹奏楽作家のオザワ部長がレポートする。

メディアに引っ張りだこの「強豪校」

 前回の記事(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54451)では日本中に広まった吹奏楽の歴史や、「吹奏楽の甲子園」こと全日本吹奏楽コンクールで活躍する大阪桐蔭高校の「強さ」の秘密を解説した。

 実は、高校吹奏楽界には大阪桐蔭高校以外にも「強豪校・常連校」と呼ばれる学校があり、そこには毎年のように吹奏楽部を全国大会へと導く名顧問がいる。日本中の吹奏楽指導者にとっては、いわば「神」のような存在だ。

 そんな名顧問たちはいかに吹奏楽部という大所帯をまとめ、モチベーションを高めて、プロも唸る音楽を作り出しているのだろうか? その卓越したマネジメント術・教育法に迫ってみたい。

『題名のない音楽会』にも出演

柏市立柏高校吹奏楽部(千葉)

「イチカシ」の愛称で呼ばれる市立柏高校は、全国でもっとも有名な学校のひとつだ。全日本吹奏楽コンクールに通算29回出場し、17回の金賞を受賞。マーチングなどその他の大会でも常にトップレベルの成績を残している。また、テレビ朝日『題名のない音楽会』など各種メディアからもひっぱりだこだ。

 この市立柏高校吹奏楽部をゼロから作り上げ、現在では200名をゆうに超える部員たちをまとめ上げているのが顧問の石田修一先生である。

 石田先生の指導法は類を見ない独特なものだ。通常、コンクールの曲を練習し始める場合は、冒頭から楽譜のとおりに(多少テンポをゆっくりにして)演奏していくものだ。しかし、市立柏高校では楽譜に出てくる音符を一つひとつ、最初から最後までロングトーン(長く伸ばして吹くこと)していく。つまり、曲を構成しているすべての音を、じっくり時間をかけて隅々まで確認・点検していくということだ。気の遠くなるような作業だが、イチカシの音作りに一切の妥協はない。自分が出すすべての音、他の楽器とのピッチやハーモニーなどを確認するのだ。

「無駄な音などひとつもない」という石田先生の徹底したポリシーがそこにはある。

指導をする市立柏高校の石田修一先生。1978年に開校された同校に赴任すると吹奏楽部を創設した(著者撮影)。

 また、通常では曲を練習していく際、楽器ごとに分かれて「パート練習」を行うのだが、市立柏高校では楽譜の特定の箇所で同じ音やフレーズを吹く楽器が集まる「パーツ練習」をする。パーツはいくつも存在するため、分刻みでスケジュールが決められており、部員たちは自分が担当するパーツの練習場所へどんどん移動しながら練習していく。

 一音一音、あるいは、いくつものパーツで練習したものを、最終的に石田先生が合奏という形で組み立てていく。先生はこういった練習法をトヨタなど日本が誇る自動車製造の工程をヒントに編み出した。だからといって、音楽が機械的なものになるかというとそうではない。むしろ、情感あふれるロマンティックな演奏は市立柏高校の得意としているところだ。

 妥協のない徹底した練習をベースとしているからこそ、より人間らしさや思いが引き立つ演奏ができるのである。