――有機ELの方式について、パナソニックは印刷方式、ソニーは蒸着方式と異なりますが、技術をどのように融合していったのですか? 

加藤敦氏(以下、加藤) 産業革新機構の主導で、印刷方式有機ELを事業化するという目的のもと、パナソニックとソニーの有機EL開発部門を統合し、事業統合会社JOLEDが設立されました。元々パナソニックで印刷をやってきたエンジニアと、ソニーで蒸着をやってきたエンジニアが一緒になっていますので、初期の頃は、印刷で本当にいけるのか等、活発な技術者同士の意見交換がありました。最終的には印刷方式でやるという方向性で全社でベクトルを合わせ、一致団結してやって来ています。

 JOLEDとしては、中型の高精細有機ELで市場を作ることを基本思想としてスタートしておりますので、10から30インチの、高精細4Kをターゲットにしています。

 印刷方式は、高精細にしていくためには印刷精度をより上げていかなければなりません。パナソニック時代には80ppi(pixel per inch:1インチあたりのピクセルの数)まで印刷できており、JOLEDとなってからは、最初の1年間で200ppiクラスを目指して開発を続けました。

 2015年に12.2インチのフルHDで180ppi、2016年に19.3インチの4Kという200ppiを超える精細度のものを開発しました。製品として世の中に出しているのが、先ほどお見せした21.6インチの4Kで204ppiです。ソニーの医療用モニター向けに、2017年4月からサンプル出荷し、2017年12月に製品として販売を開始しました。これが弊社の製品第1号になります。

――高精細をするために何をされたのでしょうか?

加藤 高精細にするためには、画素間の距離が短くなりますので、インクのより高い塗出精度が求められます。また、画素サイズが小さくなりますので、インクのサイズも小さくしていく必要があります。印刷精度とインクサイズを高いレベルでコントロールすることが重要になります。研究室レベルでは、350ppiぐらいまではムラなく安定して印刷できることが確認できています。

――204ppiの精細度で医療用には問題なく使えるということですか?

加藤 お客様には問題なく採用いただいています。医療用モニターにも様々なものがあり、弊社のディスプレイパネルを採用いただいている超音波診断装置は、比較的薄暗い部屋で、白や黒を主体に使われます。そのような使い方ですと、高輝度は求められず、白黒の階調性に優れるという有機ELの特長を生かせます。

 有機ELの特長が生きる用途での応用から始められたのは、素晴らしい判断と言える。

図2 世界で初めて出荷した21.6インチ4K印刷方式有機ELディスプレイ(JOLED提供資料より)

――有機ELの寿命は、蒸着方式も含めて課題だと思っています。印刷方式の有機ELの寿命は、実用レベルに達しているのでしょうか?

加藤 産業用の指標として、「焼き付き」の評価にLT95、つまり5%輝度劣化するまでの時間を評価軸としますが、現在の製品は、ピーク輝度である350cd/m2で、LT95が1000時間となっています。実際には、評価テストのようにピーク輝度で光らせ続けるという使い方はしませんので、製品として使用する上では、問題のないレベルとなっています。

――輝度劣化は、何が原因と考えられていますか?

加藤 有機ELに限らず、ブラウン管もプラズマも、自発光デバイスである以上は発光体が劣化していくというのは避けられません。材料メーカーと協力しながら、将来的なターゲットを決めて研究開発を続けています。

 JOLEDディスプレイの販売も拡大しており、医療用モニターに続いて、プロフェッショナルモニターへの採用も予定されています。

――量産の対応については、準備が進んでいますか?

加藤 能美事業所で量産ラインの建設を進めており、2020年から量産開始で準備を進めています。

 ジャパンディスプレイが能美工場として使っていた5.5世代液晶生産ラインを、われわれが取得させていただき、既存設備を生かしながら、セル工程を入れ替えて有機EL生産ラインに作り変えます。